新たな会社

ジュピターさんがルイ・ウィートンに向けて声を張り上げて言葉を放った。しかしその声はルイ・ウィートンだけでとどまらず、ステージを見ている俺たち観客の心を鷲掴みにした。



「ありがとう、ジュピター。俺は進むよ、恐れずに!」



ルイ・ウィートンが、ジュピターさんを強く抱きしめて離さない。ステージにあるマイクは服と服が擦れるわずかな音さえ逃さずに拾う、臨場感が一瞬にして最高潮に上った。



「こうしてジュピターと共に私は己の夢へとただひたすら突き進んだ。しかし、この世界がそこまで甘くないと、夢を叶えようと突き進んだあの期間だけでわかってしまった。」



「何から始めたらいいかわからなかったのだ。もちろんアドバイスなどないため、私たち2人だけで人の思ういい匂いを、突き止めようと努力した。そうして長い工程を経て出来上がった香水………でも、それがパリの街で売れることはほとんどなかった。」



「そうして私は、商売に負けに負けて、やがてパリの町の隅で寂しく香水を売るハメになった。」



「絶望の淵、まさにがけっぷちという状況の中で私はジュピターにこんなことを言った。」




「私は、恐ろしいほどに疲弊していた。人生に焦りと不安を感じていた。妻であるジュピターは毎日仕事を頑張ってくれ、私をいつも励ましてくれる。なのに、私は一向に香水を売ることができない、罪悪感が永遠と付き纏ってきた。」



「ごめんよ。無理させてしまって、やはり私も仕事をやるべきだと思う、これ以上君に………」



「ならこういうのはどう?」



「えっ!?」



ジュピターさんがそう言って、ステージ上にたくさんの紙のようなものを投げてばら撒いた。ヒラヒラ舞う紙の一枚をルイ・ウィートンが掴んで、それを見ると冷静で落ち着いた顔が途端に驚いた顔に変わった。



「香水を売る会社に入ってくれる社員を募集する!?」



「ええ、そう。この紙を町の中に貼っていけば大変だろうけど少しずつ私たちの知名度も上がるでしょ?それに、私たち2人の他に協力してくれる人が現れるかもしれない。」



「人集まるのか、そんなんで。」



「わからないの?何かを成し遂げることに焦ってはいけないの。まずは周りからゆっくりと状況を変えていかなければならない。逆に言えば、ゆっくりと状況を変えていってもそれが無駄になったりすることは絶対にないってこと。」




「わかった、やってみよう。」



「私たちはパリの町の至る所に、紙を貼ってみた。その作業が終わってから1週間は、まったく効果が見られずにまた不安な気持ちが脳を掠めたが、さらに時間が経つとなんと私たちの家に1人の女性がやってきたのだ。」



ステージの左側の暗闇、舞台袖という場所から新たな女性が1人現れて言った。



「私の名前は、ジャンヌといいます。私は香水が大好きでいつしか憧れの香水を自分で作ってみたいと考えていました。そんな時、あの紙を見ました。お願いします、私をこの会社に入れてください!」


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