他人のことばかり
「レディースアンドジェントルマン。今日は、私のステージにお越しいただき誠にありがとうございます。」
広いステージの上に集まった光の粒を、全身に浴びるその姿は、まるでブラックホールのよう。
決定的にブラックホールと違うのは、集まった光で彼が輝いているのではなく、彼自身が放っている光が彼を煌びやかにさせているということだ。
「今宵、皆さんにお話をさせていただくのは、この私ルイ・ウィートン、そしてそのテーマこそ、私の人生と経験であります。」
「物語はあの小さな喫茶店から始まり、やがてその物語は世界を巻き込む巨大なものとなっていくのです。」
ステージが少し暗くなって、何かが始まるのかと俺は胸が強く躍り始めた。ステージの上には、ルイ・ウィートンの別にある人物が出てきて、その人物に光が集まった。
「この人は、私の幼馴染で妻である、ジュピターです。私のステージに来ている方はよく知っているかもしれません。なぜなら私は、ステージの上でいつも妻のことを語るからです。いや、語らねばならなかった。」
ジュピターさんは一言も喋らず、ステージの隅にあった椅子に腰をかけて、俺たちと同じ観衆となった。
「妻の話を、私が必ずするのは当然理由があります。それは、私の大きすぎる無茶な夢を全て飲み込んでくれた最初の理解者が妻だったからです。」
「私の夢を認めてくれ、背中を押してくれるのは今こそは多くの人々がそうです。ですが、世界一の香水を作ると言った時に背中を押してくれたのは世界中のどこを探そうがジュピター1人だった。」
その言葉を聞いたジュピターさんが、椅子から立ち上がって当時の再現、演技を始めた。
「ねえ、どうして?なんで、私と別れたいの?冷めたなんてあなたらしくない。」
「ごめん、本当は君に冷めたわけじゃないんだ。これから一緒に過ごしていくのを考えても、俺の夢が必ず邪魔をしてしまうんだ。」
「え?どういうこと?パリの有名な企業で働くんでしょ?偉いよね、ご両親のサポートを受けないだなんて。」
「いや、あれはあの時……咄嗟に言われて作ったまったくの嘘で、本当は有名な企業なんか目指してないんだよ。」
「じゃあ、あなたは何を目指してるの?」
「ステージだよ………香水だよ。」
「ステージ?」
「父を超える、世界一の香水を作るんだ!そしてそのブランドに私がなる。ルイ・ウィートンが!」
ルイ・ウィートンが胸を強く叩いて、その音が反響してホールの中に何度も響き渡った。ルイ・ウィートンの顔は、覚悟という感情の色に染まりきっていた。
「でも、それを叶えるには命を賭けなきゃダメだ。死ぬ気でやらないと、お金は安定しない。だから、その………」
「ダメ、別れてほしいなんて言わせない。」
「えっ………」
ジュピターさんがルイ・ウィートンの口を手で優しく覆って切なそうに言った。でも、その声色とは真逆に、ジュピターさんの顔もまた強い覚悟の色に染まりきっていた。
「ダメだよ、そんなの。あなたは人のことばかり、夢を叶えるスターが!パリのスターが!他人のことばかり考えてちゃスターになんてなれないよ!誰かのスターにも、お父さんにも勝てないよ。」
「勝つためには一つ、周りを信じて自分の力を100%出すこと。だから私を信じて進んでよ。とっとと進んでよ!私は私で戦うから、あなたはあなたで戦って!!」
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