誰かの真似
「会社、とは言うがそんなの名ばかりの飾りだ。こんなところまで会社と表現していいのならば、パリのオフィスのほとんどはベンチャー中小関係なく大企業の会社になってしまうぞ?」
「なんてまあそんなことを思いながら、1人目の社員を私たちは歓迎した。」
その声がしてからすぐ、ステージが一瞬だけ暗闇と化した。しかしよく目を凝らせば数人の足音と共に何かが運ばれているのが薄ら見えた。
やがてステージに光が灯ってそこで何が用意されていたかが鮮明にわかるようになった。ステージの中央に大きなテーブルとそれを囲むように椅子が用意されていた。3人はそこに腰をかけて何かを食べる動作を始める。
「今日もとても美味しいです。さすがの腕前ですねジュピターさん。」
「やめてよジャンヌ、そんなことないし、恥ずかしいじゃない。」
「またまたご謙遜を………!私もジュピターさんのような美味しい料理を1人で作れるようになりたいです。」
「ジャンヌの言う通りだなジュピター、やっぱりジュピターの料理はすごいよ。」
「ジュピターの料理の腕前は、パリのどんな高いレストランのシェフでも敵わないほどだった。私は少なくともジュピターの料理より美味い料理はこの人生で食べたことはない。」
「私は毎日、決して割れることのないようにジュピターに対して愛情を膨らませる。料理でも、洗濯でもなんでもいい。小さなことから言葉にならない愛を心の中でゆっくりと膨らませるんだ。風船のように、簡単に割れないよう。」
「ごちそうさまでした。……あ、ウィートンさん、この後少しお話よろしいでしょうか?」
「ごちそうさま。あ、ありがとうジュピターわざわざ片付けまで。別に大丈夫だが、どうかしたか?」
「これなら売れるであろう香水、案があります!」
「ほう?」
「それから私たち2人は私の自室へと移動して、香水についての話し合いを始めた。」
「あの、まず聞きたいことがありまして。ルイ・ウィートンさんのお父様はあの世界一の香水、パルバンという香水を作り出したすごい方なんですよね、この前私に話してくださったのをよく覚えています。そこで単純な疑問なんですが、ならばなぜその知名度をご利用になられないのでしょう?最初からお父様のお力を借りれば………」
ドンッ!
テーブルが真っ二つに割れるのではないかと心配になる程、ルイ・ウィートンが机を叩く音は強く激しい音だった。
「申し訳ございません、私が何か良くないことを、」
「ジャンヌ、君はまったく間違ったことを言っているよ。まさか君が言ったその売れる香水っていうのも誰かの真似事ではないだろうな?」
「いえ、それは!」
「ならばいい、だがまだ一つ言いたい。ジャンヌ、君は根本的に間違っているよ。分かるさよく分かる。君の気持ちもね。まったく真似をしないのは不可能だし、それを利用した方が手っ取り早いのもわかる。人は0から1を作れないって言うから。」
「でもなにも私だって0から1を作りたいわけじゃないのさ。私は1を無限大にしたい、人の数だけ思いがあるようにそこに連なってほしいんだ。私たちの香水が1人の2になればいい、これは難しい話だからゆっくり話そう。」
「はい、」
「まずはこれを覚えるんだ。いいや覚えろ。香水というものをつければ人は大人になる。それも一瞬でだぞ?ただ1回そのボタンを押しただけさ。なのに子供が大人に一瞬でなってしまう、それほど香水というのは人をプラスに変えてくれるのさ。1を2にね。」
「そんな人を変える香水を売る私たちが、元からある2に頼ってどうする?1を2という大きなプラスに変えるのが仕事ならば、もう既に人を変えることのできたものを利用するのではない!」
「私にも強い思いがある、面倒くさいだろうがついてきてくれ。父には頼らずに新しい香水を作る、それが私の願いなのだから。」
「すいません………」
「あっ、なにも泣くことは!」
「2人!コーヒーを待ってきた………って、何泣かせてんだよルイ!!」
「違うんだこれは!泣かせたかったわけじゃなくて!」
ステージ上を走り回る2人、ジュピターさんの顔はまさに怒り狂った顔だった。それほどに最初の社員であるジャンヌを気に入っていたのがよく表現されていた。
「待ってください!私の考えが甘かったんです、すいません。でも………聞いて欲しいです!私の香水を!」
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