たばこ好きのおじさん
なんていい日なんだ!!
ドアを開けば元気な太陽がスポットライトのように俺を明るく照らしてくれた。
「輝いてる、俺輝いてる…!」
本当は学校など行きたくもないがマリンが会いたがってることだろうし行かなきゃならないだろう。
「るんるん、ふーん」
「あ、ガブリエルさんおっは!」
「アントワーヌくんおはよう、いってらっしゃい!今日も頑張って……なんかテンション高くね?あとこの匂いなに!?」
俺が街を歩けば途端におしゃれなBGMが流れる。俺の毎日を彩ってくれるぜ!
「なんて気持ちいいんだ!こんなに楽しいのはいつぶりだろう…」
ここまでの高揚感は未だかつて味わったことがなかった。夜ご飯に好きなハンバーグが出た時よりも、クリスマスプレゼントをもらった時よりも、、憧れの………ん?あれ、なんだっけ?なんかもう一つすごい嬉しかった時があったような。
ま、今が1番だろ!!!
「あれ、は!?もうこんな時間!?」
たばこを咥えながら赤いギターを弾いていた口髭の濃いおじさんの演奏に見惚れているともう数十分も経っていたらしい。
「おじさん、ギターめっちゃうまいっすね、それじゃあ!」
こんなにギターうめえのになんで誰も聴いてねえんだよ。おかげでこの場から離れるのが気まずいじゃねえか!!
「ちょっと君。」
「うおっ!!!ぶねえええ、、なんですか?」
勢いよく走り出した瞬間に声をかけられたものだから危うく転びそうになってしまったがなんとか足で踏みとどまった。
「君、どこの学生?」
さっきまで一切喋らなかったおじさんが突然喋り出したことに少し動揺しつつ、質問に答えた。
「パリの学校に通ってますけど…」
「パリ?ここから電車だと30分ってところか」
「そうなんです、でももうその電車に間に合いそうになくて…」
「そんなことだと思ったよ。……おじさん、いい車持ってんだぜ?どうだ、乗ってかねえか?」
「え!?いいんですか!」
「ああ、それも無料でな。まあ学生から金を取る気はさらさらない。ちなみに俺の演奏は本当は有料なんだぜ?」
「それのせいなのかあんま人が寄ってこなくてよw苦労してんだよ」
「そういうことなんですか…!」
「ほら、そうと決まったらとっとと飛ばすぜ!近くの駐車場に俺の自慢の相棒が待ってるぜ!」
「はいっ!」
やべえ、やべえ!!楽しすぎるだろ!なんだよこれ、俺はただ香水をつけただけだぞ?なのにあんなに平凡だった毎日が一瞬で変わっちまったぞ!?
「よし、しっかり掴まってろよ!」
「シートベルトしてるから大丈夫ですよ!飛ばしちゃってください!」
「シートベルトなんかじゃ守れないものもあるかもよ」
「どういうこっ」
「わあああああああ!?」
赤い車に黒いハンドル、その色たちが視界をビュンビュンと飛び回るほど車が超高速で走っているのを感じて俺はシートベルトにしがみついて掴まった
「どうだい?周りに車はないからぶつかる心配はないんだ。こんなに最高なことは中々ないだろう!」
「確かに!!!!!ってオープンカーだから風がきて上手く喋れないよ…」
「さあ、そろそろだぞ!」
「おおっ、もう見えてきた、すごい速いよおじさん!」
「掴まりな!!」
ドンッ
「ごっ!!」
「へへっ、お疲れ様。よく無事だった。」
あまりの急ブレーキに車から投げ飛ばされそうになったがしがみついていたシートベルトがそれを許さなかった。
「ありがとうおじさん!おじさん、いい人だね!」
「何言ってるんだよ、これでも俺は借金まみれのクズ男だぜ?勘違いするなよ。」
おじさんはたばこを咥えて白い煙をパッと吹いた
「あ、じゃあいくね!本当にありがとう、楽しかった!」
「あ、君…その香水いい匂いだね。でもつけすぎだ、めんどくさい先生がいるだろ?気をつけろよ。」
「確かに…バレたらまずいや。」
「それともう一ついいかい?夢を聞きたい、こんなにおしゃれな君と会えたのもなにか縁だろう。」
「おじさんみたいなパリのスターになりたいですっ!」
「はははっ……やめろよw俺はスターじゃない。…チケットをやろう、俺が子供の頃に親父に連れてってもらって大好きになったあるスターのチケットをな?」
「え、でもおじさん借金あるんでしょ?こんなのもらったら申し訳ないよ!」
「…スターは他人のことを考えてるだけじゃなれねえぜ?」
「でも!」
「いいからもらっていきな!」
ブンッ
「ちょっ、おじさん!!」
おじさんはチケットを投げて、赤い車をまたとんでもない速さで車のいない道へと走らせた。
ヒラヒラと空を舞うチケットが地に着く前に俺はそのゴールドのチケットをなんとかつかんだ。
「…まあいっか、もらっちゃったし、見に行こう。えっと…誰のステージだ?」
チケット ゴールド
ルイ・ウィートン
「ルイウィートン?なんか聞いたこと…あるような」
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