パリの町で僕は大人となる
学生作家志望
大人になってパリのスター
「もう朝かよ…なんだよもう、もっと寝てたいのになぁ」
朝がくれば小鳥の囀りが聞こえるなんてそんなの幻の話。この町ではラッパの音が響き渡る。
「ガブリエルさん今日もやってるよ、昨日吹いてたから今日はないと思ったのに!!」
カーテンを開ければ、向かいの家の庭でラッパを吹いているガブリエルさんがいた。
昨日の朝は心地の良い目覚ましのように聞こえていたラッパが今日になると道路工事のドリルの音のような騒音に変わったわけである。
僕は勘弁してくれと、ベットからため息をつきながら降りた。
「アントワーヌ、何をしてるの!早く起きなさいっ!」
ドア越しから聞こえた声の正体は母親だ。昨日の朝はあんなに穏やかな声を出していたくせに、なぜ平日はこんなに鬼のような声を出すのだろうか…?むしろ逆の方が助かるのだけれど。
「ていうかタイミング悪すぎだろ、、」
部屋にあったガムを強く噛んでイライラを抑え込んで渋々、ドアを開けた。
確かにこういう話はよくある。あるあるってやつだ。
勉強をしようとしたら親から勉強をしろと言われるとか、部屋の掃除をしようとしたら部屋の掃除をしろと言われるとか、母親ってのは常にタイミングが最悪の生き物なのである。
「はい、朝ごはん。食べたら早く学校行きなさい。」
「げっ…これ、」
「何よそのいかにも不満そうな顔は。」
白い透明な皿の真ん中に綺麗に盛り付けられたそれは、僕の大嫌いなチコリという超苦い野菜だった…
「これ苦手だって言ってんだろ!」
「あっそ、じゃあ食べなければ?そのまま行きなさい。」
「そうするよ!!」
やっぱりタイミングが最悪な生き物だ。週の始まりなんて憂鬱な日になんでチコリなんて出すんだよ…!
洗面器の中にガムを吐いて髪をブラシで荒く解く。普段はこんなことは絶対にしない。いや………最近はよくすることだな。
最近はなんだか母親にイラつくんだよ。母親どころかこの家すら嫌になってくる。だっておかしいだろ?弟にばっかり優しくしてよ。なんで僕にはあんなに厳しいんだよ。
毎日僕に構ってくれた母親は、まだ僕より背の小さい弟のことばかりを優先するようになった。
弟が何かあれば僕のせい、弟には大好きな絵本をプレゼントしたり…弟、弟、弟ってうるさいんだよ。
あんな母親……こんな家、すぐに飛び出してやりたい。実際僕が家から出てっても何も思わないんだろうな。
「できた…」
パリで最近流行ってるという髪形を真似て気分が段々と上向きになっていった。
「そうだよ、こんな家…僕はもう大人だぞ!抜け出してやる。僕だって僕だって。」
僕には密かに思いを寄せているマリンという女の子だっているんだ。僕だって本気出せば、もっとイケメンになって立派なパリの男になれるはずだ…!
「そういえば、お母さんの高い香水がここら辺にあったような…」
数ヶ月前に高いブランドの香水を買ったとまったく興味のない自慢をされたのを思い出す。その時は興味がなかったが今はその価値に気が付いたのだ。
きっと、その香水をつけている人こそが本物のパリの人…!!
僕は洗面台の引き出しを片っ端から探し、1番端っこにあった香水をついに見つけた。
ガラスの中で透き通った液体が光と共に踊って綺麗に輝いていた。
「これが……」
とんがっている部分を押すと目に見えないほどの細かい液体が肌に降りかかった。
「やば、、いい匂いだ!」
今になってあの時の自慢の意味を理解した。この香水は今まで嗅いだことのないほどのおしゃれな匂いがするのだ。
「よし、いこう…」
待ってろよマリン、いや…パリよ!今日からはこの俺がスターだ。
あのクラブで、あのステージの1番上で大人のパリ人を見事に踊ってやろうじゃないか…!
もう俺は立派なパリ人さ!
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