この世で最も重い荷物

ラザールの覚悟がどこから来ているのか、それはたった一つの心構えであった。


俺には到底真似できないような所業だったが、だからこそラザールの背中が余計に大きく強く見えたのだ。


完璧なんてなかったんだ、きっと。俺が完璧だと思う人間にだっていくらでも弱いところはあるだろう。俺の追い求めてきた完璧はそれを自分自身でカバーできる強さを持った人間。


おじさんをかっけえって思ったのは、自分より遥かに大人でそれでいて、自立もしてたった1人で生きているという姿を見たから。でも実際はおじさんだって自立して誰にも頼らないで生きていける姿を夢に見てた。それが理想でディホールさんの力を借りて生きているのに情けなさそうだった。



ラザールも本当は、自分のことで精一杯なんだろうな。本当は怖くて頭が真っ白になってしまいそうなものを、ギリギリで堪えてなんとか制御して声を出して・・・・・・。


俺はなんにもわかってなかったな。心はみんなそのまんまなんだ。


外付けの皮も心と同時に生まれてきたものだ。人はみんな、外付けばかりをどうしても気にしてしまう。惑って騙されてしまう。


顔とか外付けのための性格だとか。強い心を持つ人は外付けの皮なんて気にせずに自分を表すことができるのだと知った。




・・・・・・そうしてあのオーディションから約2週間が経った。



「容体が悪いようなんだ。今は喋ることもまともにできそうにない。」



「そう、ですか。」



ディホールの体は既に限界を向かえていた。まるで最後の仕事をやりきったかのように、朗らかな顔をして目を閉じている。わずか出会って数週間の付き合いのはずなのに、アントワーヌが涙で頬を濡らすのは、子供からの憧れを彼に抱いているからに他ならない。



「フリアンさん。俺、絶対に。」



「ああ。分かってる。俺も信じているよ。だから肩を落とさないでそのままでいてくれ、な?」



一番つらいのはフリアンさんだよね。こんなに悲しくなったらダメだ。前を向いていかなきゃ、ラザールもそう言ってた。



「っ、、、」



「フリアンさん・・・・・・」



「ごめんな。こんなところを見せて。」



フリアンさんやっぱり我慢して。


服が涙で濡れていった。黒い点が徐々に大きく膨らみ、シミのような形に変わっていく。それを見たアントワーヌがティッシュを取り出してフリアンに渡していた。



「どうしてだろう、、辛いんだ。夢を追いかけてきたはずなのに叶わなかったからかな。ステージに立てないから?でもそうじゃない。それもあるけど一番はなんにも親孝行できなかったからだろう・・・・・・」



後悔はこの世の何よりも重かった。軽い行動をした分だけ後から重い荷物を背負うことになる。こんなこと、少し立ち止まればわかる。なのになぜかその時にならないとわからないのだ。


それを後悔というのだろうか?親孝行を出来ていないこと、借金を大量にしてしまったこと、そして寄り添えなかったこと、これをこれまでを後悔という二文字だけでまとめていいものなのだろうか。


フリアンは後悔という自分の思いまで、まだ軽いような気がしてしまって仕方がなかった。


「俺は、俺は、最低だ。」



「フリアンさん。それでも俺は!!」



「おいっ!結果が出たぞ!」


病室のドアを勢いよく開き、慌ただしそうに話しだしたジョンケ。後ろにはアントワーヌのマネージャーもやってきていた。



「本当ですか!!」


フリアンは急いでティッシュを使い涙を拭いとると、すぐに前を向いた。


「合格。してるよな!」




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