大人になるために

「どうしてだ・・・・・・?どうして俺に憧れの矛先を向けているんだ?」


「え、どうしてって、」


おもわず口にしてしまった。憧れだと初めて言われたときは、あんなに嬉しかったのに。その喜びがまた自分の現実を突き付けてくるようで、怖かった。


しかし夢を本気で追いかけてきたアントワーヌに嘘はないのである。



「フリアンさんは俺にない、すっげえものを持ってます。歌が上手いし、かっこいい車にも乗ってるし。人に夢を与える力もあります。もうこれ以上ないほどに完璧だと思っています。」



「まさかそんなに褒めてくれるとはな、お世辞がさらにうまくなったか?」



「え!なんですかその言い方、俺は本気ですから!」



自分で話を振ってきたくせに、なんでこんなに照れてるんだろう、やっぱり俺はまだこの人のことがわからない。だけどこれだけはわかる。


かっけえってこと。



「あのさあ・・・・・・。」


腕を組んで呆れたように言葉をかけるジョンケは、なかなか話が進まないのでしびれを切らしてイライラしていた。


「ぜんぜん話進んでないよね。」



「あ・・・・・・」


声を合わせてさらにジョンケのほうを見る。まるで背丈だけが違う双子のようにシンクロをさせていた。



「なんなんだよ、とにかく本題だよ!本題!」



「わかったよ、、それじゃあ始めよう。」



「はい。」



「まずはなんでここに連れてきたのか。俺から説明させてもらおう。」


ジョンケはここまであった出来事をまとめて伝えた後、ここにきた理由の説明を始めた。


「アントワーヌにはあるステージの主人公になってもらいたい。でもそんな大役、なかなか簡単にはなれない。オーディションってのがあるからね。その戦いに勝つためにここに連れてきたんだ。」



「どういうことだよ。俺と父さんに会わせてもオーディションにはなにも影響しないはずだろ?」



「経験則のカバー、知識。そして勝ち上がるための戦術。アントワーヌにはポテンシャルがあるけど、今言ったものがはっきり言って皆無というレベルでない。」



「グサッときます・・・・・・」



「だからディホールさんとおじさんに、力を借りたい。思いがかかった作品でもあると思いますし。」



「俺が、、アントワーヌを育てる、、のか?どうしろって。」



「フリアン、できる。できると思うことから始まる。」



「父さんまで・・・・・・」



「ライバルは多い、どんな役者がくるかもわからない。なんとしてでも勝つためだ。」


ことが大きくなっていっているのを止められそうもなく、アントワーヌはただ静かに聞いていることしかできずにいた。それに気づいたのはフリアンだった。



「まてアントワーヌ、大丈夫か?・・・・・・本当にこの役でいいんだよな?」

「なあジョンケ、俺のためにアントワーヌを連れてきたならそれは無責任だ。わかってるか?」



「無責任?」


「俺がこの子を選んだんじゃない、夢を叶えたわけでもない。それなのに俺の実績のためだけを考えて、ここに連れてきたなら大間違いだって言ってるんだ。」



「それは、」


顔を見合わせて二人の熱はどんどん上がっていった。だがその熱を上回る高い覚悟を見せたのは、まだ学生であるアントワーヌ。



「やります。俺、絶対にステージに立ちたいです、!だから教えてください!!」

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