2-7

 本当に中道さんには悪いのだけど、さっきの詩の中で本当のことはおこわを食べたことだけである。お母さんとは関係良好で、何の問題もない。自分でも、でまかせみたいな詩ができたことにびっくりしていた。

「お前、女の子を泣かせるとはなかなかのやり手だな」

 ムルサイセイヌが下品な笑みを浮かべた。

「ええっ」

「ううっ、 おぎー幸せになってね……」

 中道さんは嗚咽が止まらない。

「なんか罪悪感が」

 僕は恥ずかしくて頭をかく。

「文学とはそういうものだ。自分の作り出した作品に自信を持て」

 そう言うと、ムルサイセイヌの手の中に氷のかけらが無数に表れた。なんか、コンビニで買ったことはないけどよく見かける袋入りのあれに似ている。

「ただ、相変わらず魔力は弱い。私は好きだったが、詩情はそれほどだったようだ」

「誰がどう判定しているんだろう……」

 詩の良し悪しと言うのは、結局のところ好みだと言われることもあるし、明確にいあるという人もいる。ただこの場では、魔力と言う形で目に見えて現れてしまう。なんて残酷なんだ。

 ムルサイセイヌは、頭上の悪魔に向かって氷の粒を次々と放った。悪魔は避けるでみなく、真正面からその攻撃を受ける。びくともしていないように見える。

「ちょっと、だめじゃんムルちゃん!」

 涙をぬぐった中道さんが叫ぶ。確かに全然ダメだったように感じるが、ムルサイセイヌは笑っていた。

「ムルチャンではない。いいか、たしかにタワマンの詩情は悪魔に力を与えている。だが、受け取る側の悪魔は詩情を理解せずに受け取っている。力は得ても、コントロールできていない」

「意味が分かんない! 難しい詩みたい!」

「難解な詩もいいものだぞ」

 余裕を見せていた悪魔が、眉……の位置にある何かをひそめた。ふらふらと揺れ始める。

「翼筋を凍らせた」

 ムルサイセイヌは、女神とは思えない悪い笑顔で言った。

「よくきん? つばさの筋肉? まあ、そりゃあるか……」

 つばさを動かせなくなった悪魔は、落下し始めた。近付いているはずなのに、小さくなっていくように見えた。タワマンから遠くなると、魔力も弱まっていくのかもしれない。

「おぎー、やったじゃない!」

「え、僕?」

「おこわ、食べられてよかったねえ」

 中道さんの真っすぐな目から、どうにかして逃げたかった。

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僕の現代詩は魔力が弱い!? 清水らくは @shimizurakuha

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