2-6

「あ、あれ」

「どうしたの、おぎー?」

「何も出てこない……」

 頭の中が突然空っぽになった。僕はいったい、どんな詩を創りたかったのかがわからなくなった。

 今まで、創りたいときに詩を創ってきた。だからなのか、他人に頼まれて創ることに戸惑いが生まれている。望まれているから。必要だから。僕は、それにこたえられるほど強くはない……

「こら、何でもいい、昨日の夕飯でもいいぞ!」

 ムルサイセイヌが大きな声で言う。怒っているみたいだ。

「き、昨日の夕ご飯……おこわ……」

「おこわなの!?」

「おこわだと!?」

 二人の声が重なった。

「そんなに変?」

「まあ、自由だけど。うちはないなあ」

「今の思いを詩にしろ、それでいいっ」

 今の思い。おこわが珍しいと言われたことへの戸惑い。ひょっとしておかずを答えるべきだったかという戸惑い。でも母さんはおこわに自信を持っており、堂々のメインだったのだぞという憤り。

 色々な思いが、渦となって口から飛び出す。



「これが今の思いですっ。


『おこわ』

作・荻原作次郎



おこわを食べた

母の作るおこわは

世界で一番強い

母の作るおこわは

世界で一番怖い

母の作るおこわを

一番愛している

僕は今日

母を傷つけてしまった

おこわを作りかけていた母が

寝室から出てこない

それから時間が経って

母は無言でおこわを作って

食卓に出した

僕は泣きたくなるのを我慢して

黙って

美味しいおこわを食べた」



「ん……ん?」

 ムルサイセイヌが首をかしげている。いや、僕も手ごたえがなかったのだ。

「うっう……」

 なぜか中道さんは嗚咽していた。え、なんかのどに詰まった?

「どうしたの?」

「おぎー、喧嘩はつらいよね。謝ろうね……」

「え、いや詩だから。フィクションフィクション……」

「嘘であんな詩創れないよお」

 中道さんの涙が止まらない。

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