僕の現代詩は魔力が弱い!?

清水らくは

魔法には詩が必要なの?!

1-1


〈さて続いての曲は……えっ、あ、はい。みなさん、気を付けてください!〉


 楽しいお昼ご飯の時間。校内放送から突然、叫び声が聞こえてきた。火事かな? みんながざわつき始める。

「え……なんか来てる!」

 窓際の女子が言う。みんなが外の方を見ると……

 なんかよくわからないのが運動場にいる。黒くて大きくて、頭に角が生えている。牛のようだけど、二足歩行している。で、なんか手をばたばたとさせて、前に進めないでいた。

「あれなにぃ!?」

 クラス全体が騒然としている。多分他のクラスもだろう。

「えっと、み、皆さん絶対に外に出ないように! え、であれは何なんですか……って誰!?」

 放送室が混乱しているみたいだ。いったい何が起こっているんだろう。


〈ふむ。ここに喋ればいいのだな。私が張った結解により悪魔は入って来れんが、時間の問題。もっと強い魔法を使うために……詩人がおったらここまで来い!〉


 一同ポカーンである。声の主は誰なのか、何の話なのか、なんで詩人を呼ぶのか訳が分からない。ただ、僕はドキドキしていた。

「詩人とかいるわけないよなあ」

「知人の間違いじゃない?」


〈詩を書くものならば誰でもよい! 早くせねば悪魔に侵入されるぞ!〉


 皆がきょろきょろする。中学生の僕らの中に、一人も詩を書く人間がいないなんて考えにくい。だけど、バレたくない人が多いはずだ。

 かくいう僕も、公表してない。

 ガンガンと、大きな音が聞こえてくる。悪魔が、見えない壁を叩いている。

 大変な事態だ。きっと、すごくピンチだ。


〈早く誰か来い!〉


 スピーカーからすごい叫び声が。

 ガタッ

 僕は立ち上がっていた。

 みんなの視線がこちらに向かっている。

荻原おぎわら?」

「おぎちゃん?」

「作次郎? トイレ?」

 足が震えている。こんなに注目されたのは初めてだ。ただ、立っただけなのに!

「僕、詩を書けます! 行ってきます!」

 勢い良く、走り出した。僕の現代詩を、生かすために――



「はあ、はあ、失礼します!」

 放送室に入る。また、視線が僕に集まる。思ったよりもたくさん人がいた。奥の方で口をへの字にしているのは今日の放送担当だろうか。その前に、国語の玉村先生がいる。その隣には、髪にピンクの筋が入った、小さな女子生徒。そして一番前には……大きくて目つきの鋭いおばさん。

「言っただろう、もう一人は来ると!」

「まさか荻原君とは」

 玉村先生が驚いている。まあ、普段から僕の作文を読んでいたらそう思うかもしれない。詩以外は全くやる気がないから。

「私一人で十分だって言ったのにぃ。ね、君何年生?」

 なぜか女子に睨まれる。

「二年生……」

「後輩ね。さて、どんな詩を作るのやら」

「お、お前たちは休んでいてくれ。こういうことは大人がすると決まってるもんだ」

「なんでもいい。早くするぞ。まずは外に出なければな」

 おばさんを先頭に、僕らは放送室を出た。自然と僕は最後尾になっていた。

「自己紹介しとくぅ? 私は3年B組の中道葉那なかみちはな。まあ、知ってるか」

「え、いや知らなかったです」

「ええ、詩を書くのに私を知らないのぉ? セントラルポエマーって聞いたことない?」

「全然」

「ま、いっか。すぐに実力、見ることになるんだし。で、先生はいいとして、あれ、おばさんの名前は……」

 中道さんの体が、急に固まった。動こうという意志だけが顔に現れている。

「この場におばさんなどおらぬが、まさかアタシのことか?」

 般若のような顔が振り返っている。え、待って、ひょっとしてこっちも悪魔?

「ご、ごめんねぇお姉……さん……」

「許す。アタシの名前は女神ムルサイセイヌ。新しくこの地区の担当になった詩神ししんだ」

「た、担当? 担当ってどういうことです?」

 先生が尋ねる。詩神の方が気になるけど。先生は理解できる言葉の方に敏感なのかもしれない。

「アタシたちは悪魔から人々を護るため、一年任期で決められた地区を護っておる。アタシはここに赴任したばかりなんだが、詩の力が見当たらなくて困惑しておった。聞けばお前たちはあまり詩を学ばぬらしいな」

「その、あまり入試に出ないので……」

 再び般若の面が振り向いた。

「嘆かわしい。詩の試験を審査できる人間などそうそうはおらぬ。日頃からの鍛錬が必要だ。……さて」

 僕らは運動場に出てきた。さっきの悪魔はやっぱりガンガンやってる。

「やっぱこっわ」

「そうだ。あれは人間など簡単に殺せる。ただ、詩情に惹かれてくるはずなのだがな……見たところこの辺りにはそんなものはないようだ。まあいい、とりかく滅するのみ」

 今度は、女神らしい顔でムルサイセイヌは僕らのことを見た。

「さあ、力を、貸してくれたまえ」

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