1-2

「では、先生が何とかしてやるからな」

「せんせー、詩とかできんの?」

「先生は先生なんだぞ。読めるに決まっているだろう」

 玉村先生が一歩前に出た。

「よし、では詩を読んでくれ」

「ゴホン。えー、雨ニモ負ケズ……」

 僕と中道さんは思わず顔を見合わせた。この出だしは、1年生の時に授業で習った詩だったのだ。

「ちょっとせんせぇ、それ他人のじゃね」

「え、駄目なのか?」

「駄目だ。アタシの力の源は、あくまで生きている人間から立ち上る詩情だ。他人の詩を読んでも力にはならん。教師なんだろう、今すぐ自作を発表するのだ」

「……ない」

「あん? 聞こえんぞ」

「小学生の授業以来、詩なんて作ってない。私には到底作るなんて……」


「なんと嘆かわしい! もういい、下がれ。次だ」

「あの、僕が……」

 恐る恐る手を挙げた。どうも中道さんには任せられないと思ったのだ。ムルサイセイヌは、さっき「詩情」と言った。それが魔力になるならば、中道さんより現代詩を作る僕の方が適任ではないか。

「ふむ。頼むぞ。特大の一発で決着をつけたい」

「で、では。恥ずかしいな……



空転する境界

         作 荻原作次郎



錯綜した後に混乱して

通過を許可した迷走が

変化していく その先に

時代の感覚が狂う


(以下略)」



 詠んでみると、意外と気持ちがいい。今まで誰にも知ってもらえなかった作品を、三人にとはいえ聞いてもらえたのである。

 みな、表情は険しいけど……

「まさか、このレベルとは。しかし背に腹は代えられん。その詩情、借り受けるぞ」

 ムルサイセイヌの手の中に、水色の光が現れた。

「おお、なんかすごいじゃん」

 ま、魔法が見られる? すごいワクワクしてきた。

「とりあえずくらえ!」

 大声と共にはじき出された水色の球が、ひょろひょろと飛んでいき悪魔の右足にぶつかった。ペチャっとした感じで、悪魔が足を気にして手で振り払おうとし出した。

「え、なんか地味……」

「今の魔法は『芯揺しんよう』。感じ悪いものをくっつけてちょっと気にさせる魔法だ。あの程度の詩ではこれが精いっぱいだ」

「あ、あの程度……」

「お前の詩は魔力が弱い」

 なんか、すごいショックである


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