1-3

「これでは数分足止めにしかならんな」

「もう、私がやるしかないじゃん」

 中道さんが、一歩前に踏み出した。そして、体を少しひねって右手を天に掲げた。

「お前の詩にかかっておるぞ」

「任せて!



誓い

(作・踊り セントラルポエマー)



あなたがくれた勇気を

全て受け止めて

最初の一歩が

光になった


見えるよ」




 中道さんは、ひらひらと踊りながら朗読した。思った以上にシンブルな詩だった。ムルサイセイヌはうんうんとうなずいている。

「気持ちのこもったいい詩であった!」

 今度はムルサイセイヌの手の中に、大きく力強い白い光が現れた。すでに右足を気にしなくなった悪魔が、こちらを凝視する。

 光の球が、一直線に悪魔に向かっていく。悪魔も両手を掲げ、赤い光を生み出した。しかし、その光もろとも白い光が飲み込んでいった。

「おばさんすっごーい!」

「お前の詩に詩情がこもっていたから、とても良い魔力になったのだ。あとおばさんではないぞ」

 悪魔の姿は跡形もなくなっていた。

「し、死んだの?」

「あれぐらいでは死なん。あれは『芯滅』、魂を帰還させ、肉体を後追いざる魔法だ。今頃地界のどこかに飛ばされているだろう」

「よくわからないけど、僕のとはずいぶん違う……」

「お前は言葉に溺れておる。難解な詩はあり得るが、難解な言葉が詩なのではない。それに比べて葉那はしっかりと言葉を紡ぎ出していた。見習うといいぞ」

 正直言って、僕の方が評価されると思っていた。口には出せないけれど、「ポエマー」と聞いた時点で勝てる気がしてしまったのだ。でも今は、頭をぶん殴られたような気分である。

「あ、あの、もう安全なんでしょうか……」

 恐る恐る尋ねたのは玉村先生である。

「わからん。悪魔はここにある『何か』を破壊するために訪れておる。一体現れたら百体現れると思え、というのが普通だ。ただ、大軍では来ないだろう。こちらの戦力もわかっていないだろうし、越境にはエネルギーが必要だ」

「じゃあ、私は校舎に戻ります。生徒たちの安全を守らないと」

「わかった。お前が戦力でないのは確かだから問題ない」

 玉村先生は逃げるように校舎に帰っていった。

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