2-2

 中道さんは朗読が上手い。改めてそう感じた。詩の内容は好みではないのだけれど、きっと多くの人に受け入れられるものだと思う。

「すごい。動画どれぐらい見られてるの?」

「なんと! 全て100再生越え!」

 思ったより少なかった。でも怖いから、驚いた顔を作っていた。

 詩の朗読動画は、そんなものだということもわかる。

「おぎーもする?」

「いやあ、僕は……」

「じゃあ、録画なしね」

 そう言うと中道さんは、僕に指で合図を出した。

「あ、え、今?」

「そうよ。いつ悪魔は襲ってくるかわからないんだから、時間を選んでなんかられない」

 僕は覚悟を決めた。が、何か朗読しようとしたが言葉が出てこなかった。頭の中が空っぽになって、覚えていたはずの詩が出てこないのである。

「あー……」

「どしたの」

「詩をど忘れしちゃった。あんまり暗唱したことないし……」

「なんだっていいの、詠めばいいから――」

 その時、空間が張り詰めるような感覚があった。僕と中道さんは、同じ一点を見つめている。灰色の小さな渦ができて、そこから白い手が二本、飛び出てきた。

「ぐぬぬ、ううむ」

 うなり声が聞こえてくる。穴を一所懸命に広げようとしているのだ。そして、ムルサイセイヌの顔が出てきた。

「なんか見たことある気がする出かたよね!」

 中道さんは楽しそうである。

「なんだろう。馬の出産?」

「誰が馬じゃ!」

 肩まで外に出たと思ったら、にゅるんと全身が出てきた。

「それだね!」

「納得するんじゃないぞ娘。こちらの世界に来るというのは大変なことなのだ」

「フェイルマンさんはそうでもなかったような気がするー」

「あ、あのお方と一緒にするな! ま、まあ移動は得意ではない……。それより! 何かいやな気配がする」

 ムルサイセイヌはそう言うと前髪をかき上げた。

「い、いやな気配ですか?」

「昨日とは別の穴が空く気配だ。滅多に近くに続けてということはないのだが」

「場所はわかるんですんか?」

「あちらだ」

 ムルサイセイヌが指さす先には、天に突き上がる建物が。どでかいマンション、通称タワーマンションである。

「え、あれですか?」

「そうだ」

「おぎー、知らないの? タワマンはポエムよ!」

「そうなの?」

「マンションポエムが溢れている、詩情溢れる現代の城壁よ!」

「城壁……」

 中道さんの目がらんらんと輝いている。いろんなところに詩情を感じるものである。

「よし、では向かうぞ」

 僕らはなぜか、詩情を求めてタワマンに赴くことになった。

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