2-3

 高い。大きい。

 僕のクラスにもタワマンに住んでいる子がいる。やっぱりお金持ちっぽい。タワマンは、別世界である。

「不思議な感じだ。アタシはこれを感じたことがあるぞ」

 タワマンに続く道で、ムルサイセイヌは神妙な面持ちである。僕は何も感じることができずにいる。

「私もにおうよ」

「ほんとに!?」

 中道さんも険しい表情である。僕が鈍いの?

「ふははは、やはり来たかムルサイセイヌ!」

 いや、鈍かった。敵はもう目の前にいたのである。白くてふわふわした衣装はなんかムルサイセイヌに似ている。背が高くて……頭の上に黒い輪っかが浮かんでいる。

「私はお前のことは知らない」

「そうだろうとも、私たち天使は散々こき使われて、使い捨てにされるんだからな!」

 こめかみに青筋が浮かんでいる。

「ね、あれって堕天使ってのかな」

「そうだろうね」

「天使より先に見ちゃった」

 中道さんは敵の存在自体に興味津々のようである。

「そうだとしても、個人的に恨まれるようなことはしていないつもりだが。それとも、女神代表でアタシに八つ当たりするつもり?」

「いや違う。私は、お前にひどいことをされたんだ。ずっと待っていた、この時を」

「いやお前、そうは言ってもさっぱりアタシは……」

 堕天使(仮)は聞く耳を持たず、急に背筋を伸ばして目を閉じた。そしていきなり、朗読を始めたのである。



「独白/先頭

       作・朗読 堕天使トレンチル



空説 出鱈目な恍惚

点滅 繰り返す自転

宝物 点になる価値

軽率 とりあえず罪


聞こえるか

夜が

朝を恨んで

笑う声が」



「独りよがりな詩だ。心を動かす力がない」

 ムルサイセイヌは首を振った。

「才能のない天使を、そうやって蔑んできたのだ。自らは詩に詳しいというのを見せつけて!」

 堕天使が叫ぶと、彼女の前に紫色の渦が現れた。そこから、細身の悪魔が開店しながら現れる。それを見て、中道さんがつぶやいた。

「なんか、馬の出産じゃ無い……」

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