2-4

「バカなことを……!」

 ムルサイセイヌがうめいた。

「どうしたというんです?」

「自らの詩で悪魔を呼ぶなど、禁忌中の禁忌。しかも魔力を補うためこの場を選んだのだ」

「何が問題なんですか?」

 僕の問いに、女神は10秒ほど沈黙していた。

「自らの詩で魔力を得れば、それは食い合う。他者の詩しか本来、魔力にはならぬのだ。ただ、詩情のある場所では異なる。つまらぬ詩に、無理やり詩情を詰め込み魔力を得ることができる。その代わり……詩情を生み出す心がむしばまれる」

「え、つまり……?」

「もはやあ奴は、自らがどんな詩を詠んでいるかもわかるまい。心を壊し、ただ言葉を発する機械になっていくのだ。堕天使は、ここで捕まえてやらねばならない」

 ムルサイセイヌは、僕と中道さんを交互に見て、頷いた。

「あ、えっと、どっちが……」

「そこで自分がやると言えぬのであれば、葉那からであろう」

「そうね。私が、堕天使を天使に戻す!」

 そんな話だったっけ?

「頼むぞ、セントラルポエマー」

「そう、セントラルポエマー! 私の渾身の一作、お披露目タイム!」

 中道さんはくるッと回って人差し指を前に突き出した。やる気を示すポーズのようだ。


「行きます!


『中指の記憶』

       作・踊り セントラルポエマー


一番近付いた指が

記憶に乗るから

中指だけを

愛おしいまま

強く握ればよかったけれど

触れることもなかったから

記憶に刻んだ爪の色が


脳に食い込んでいる

鮮やかな

あの色が

私だけの知っている色が


色が」



 中道さんが舞い終える。ムルサイセイヌがにやりと笑った。

「若いって、いいな」


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