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「バカなことを……!」
ムルサイセイヌがうめいた。
「どうしたというんです?」
「自らの詩で悪魔を呼ぶなど、禁忌中の禁忌。しかも魔力を補うためこの場を選んだのだ」
「何が問題なんですか?」
僕の問いに、女神は10秒ほど沈黙していた。
「自らの詩で魔力を得れば、それは食い合う。他者の詩しか本来、魔力にはならぬのだ。ただ、詩情のある場所では異なる。つまらぬ詩に、無理やり詩情を詰め込み魔力を得ることができる。その代わり……詩情を生み出す心がむしばまれる」
「え、つまり……?」
「もはやあ奴は、自らがどんな詩を詠んでいるかもわかるまい。心を壊し、ただ言葉を発する機械になっていくのだ。堕天使は、ここで捕まえてやらねばならない」
ムルサイセイヌは、僕と中道さんを交互に見て、頷いた。
「あ、えっと、どっちが……」
「そこで自分がやると言えぬのであれば、葉那からであろう」
「そうね。私が、堕天使を天使に戻す!」
そんな話だったっけ?
「頼むぞ、セントラルポエマー」
「そう、セントラルポエマー! 私の渾身の一作、お披露目タイム!」
中道さんはくるッと回って人差し指を前に突き出した。やる気を示すポーズのようだ。
「行きます!
『中指の記憶』
作・踊り セントラルポエマー
一番近付いた指が
記憶に乗るから
中指だけを
愛おしいまま
強く握ればよかったけれど
触れることもなかったから
記憶に刻んだ爪の色が
脳に食い込んでいる
鮮やかな
あの色が
私だけの知っている色が
色が」
中道さんが舞い終える。ムルサイセイヌがにやりと笑った。
「若いって、いいな」
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