1-9

「あ、あの、フェイルマン様……」

 ムルサイセイヌの声が震えていた。女神も恐れる存在、フェイルマンというのは本当に偉いのだろう。

「この失態、どうしようかね」

「いえ、その、これは、あの」

 小さく微笑むフェイルマンの顔が完全に悪役である。

「この国に本当の詩情はもうあまり残っていない。悪魔の出現は限られているだろう。偽物の詩人に惑わされることなく、この若い才能をしっかりと生かすのだ」

「は、はいっ」

 これは最近よく聞くパワハラというやつではないだろうか。

「んんん、んんんん」

 中道さんがうなっている。どうしたんだろう。

「何かあった?」

「あのおばさん、偉いの? 偉くないの?」

「あれでも神だからなあ。偉いはずだよ」

「なんか、アタシを見下した話をしておるな」

 ムルサイセイヌは胸を張って、ひきつった笑みを浮かべていた。

「そんなまさか、女神さまを見下すなんて」

「そうだな。まだ詩の未熟なお主たちのアタシを見下すなど1000年早い」

「おばさん、ひょっとしてむっちゃ長生きしてるのに魔法苦手?」

 ムルサイセイヌは悪魔のような顔をして、中道さんを睨みつけた。まだ手にしていた斧が震えている。

「ちょっと、謝った方がいいよ」

「苦手なものは認めてもらわないと。わたしたちはちゃんと朗読したんだよ」

 中道さんは強情なようだ。ムルサイセイヌと睨み合い始めてしまった。詩人というのはこれぐらいじゃないといけないのかもしれない。

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