1-8
「若者たちよ、見ているがいい」
フェイルマン(黒)が両手を広げると、フェイルマン(白)が一歩前に出た。
そして、両手をゆっくりと、つばさのように広げた。
「戸惑い空白
作・朗読 フェイルマン(白)
空白が溢れすぎている
アパートメントの長い水道管
闇医者のうわさだけがある地価への階段
夏が過ぎて風の吹かない寄宿舎の窓
あの教師が書く四角い文字
恋を語るときの自惚れたイド
空白が溢れすぎて
夜を覆っていく
私たちはその空白を吸って生きている
空白に満たされた体で
時が過ぎるのを待っている
夏のなんともない午後に
木々の香りがしてきたときに
ふっと我に帰る
空白ではない私が
邪魔をしているのだと
気が付いた時安心して
かつて傷ついた時流れた血のように
消える間際の揺らめきで火照る」
その声は、楔を穿つようだった。見ると、中道さんも目を大きく見開いたまま、固まっている。いいのかどうかすらわからない詩だったが、僕らと違って「大人」を感じる。
「本来我は審判者。敵の対応は非常時のみ。こんなに簡単に非常時にしてしまった女神は後ほど罰する」
フェイルマン(黒)の右手から、丸いものが生み出されていった。よく見ると、いくつもの車輪だった。車輪は悪魔の体めがけて飛んでいき、体に食い込む。悪魔は咆哮を上げ、車輪を取り除こうとするが、食い込んでいくばかりで全く対処できていない。
「すごい」
「車輪の下に、魔の国へ帰るがいい」
フェイルマン(黒)がそう言うと、悪魔の体ははじけ飛び、霧のようになったかと思うと消えてなくなった。
「なんかごつい! でも、分身の詩で魔法使えるなら人間いらなくね?」
中道さんがもっともなことを言う。ムルサイセイヌも同じことができないんだろうか。
「こ奴は我が分身などではない。契約のもとに、魔力を提供する代わりに永き命を与えたのだ。元々はダミアン・ハウセと呼ばれた詩人であった」
「知ってます! 教科書に小説も載ってました! え、この白いのがそうなんですか?」
「そうだ。もはや元の実体など求めておらぬ。我が姿を似せたものの中で、ずっと詩を奏で続けておるのだ」
詩人としての年季や気合が違う。本当にダミアン・ハウセかどうかはまだ疑っているけれど、確かに詩は素晴らしかった。
「なんかかっこよかったなあ」
「ふふふ。まあ、そうだろう。そしてここからが、本番である。情けなき女神に、審判を下さねばならぬ」
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