1-7
「今こそとどめ? 次の詩詠む?」
中道さんの言葉に、ムルサイセイヌは首を振った。
「魔法は無尽蔵ではない、アタシの方がもう無理だ」
「ええっ、じゃあどうすんの?」
「……黙っていたことがある。アタシは魔法が得意じゃない」
「えっ」
「えぇっ」
突然のムルサイセイヌの告白に、僕と中道さんの驚きが重なった。
「それゆえ修業として比較的安全なところに赴任したはずが……運が悪い」
「それはお互い様なのかも……」
「何か言ったか」
「いえなにも」
ムルサイセイヌの手の中に、長くて大きな斧が現れた。バトルアックスというものだろうか。確かめるように何度も素振りをし、空気が振動する音が聞こえた。
「悪魔はこの世で斬ってもただ形を失うだけ。魔法で再起に時間をかけさせるために避けたかったがやむを得ん。こいつで叩き潰す」
ムルサイセイヌは悪魔に近づき、斧を振り上げた。悪魔はそれを、右手で受け止める。
「予想外の展開! 作次郎ちゃんはどうなると思う?」
「作次郎ちゃん……? いや、どうなるかなんて全くわからないよ」
「つまんない。よく言われない?」
「うっ」
よくは言われないが、「つまらない詩と思われているのではないか」という恐怖は常にある。というか、今最も恐れている。
「ぬああ!」
地響きが起こったかのようなうなり声は、女神のものだった。技術とかではなく、斧を力任せに振り回しているのだ。悪魔はそれを受け止めきれず、何度か攻撃を食らっている。ただ、致命傷にはなっていない様子だ。
「な、なにこれっ」
中道さんが声を挙げた。彼女の前に、黒い油のようなものが球体になって浮かんでいる。そして球体は徐々に人型に変化していき、細く背の高い黒衣の男性となった。さらに男性の足元の影が泡立ち、地面からはがれるようにしてそっくりだが白衣の男性になった。
「こっちにも悪魔?!」
僕の言葉に、黒と白の男性が同時に眉間に皺を寄せる。
「失敬な。我が名はフェイルマン。審判者である」
口を開いたのは黒衣の方だった。高いが重い声だった。
「審判ってレフェリーみたいってことぉ?」
「まあ、それでもいい。我は女神を監査する者だ。特に着任直後は様々な点で視る必要があるのだが……これは嘆かわしい……」
フェイルマン(黒)は髪をかきむしる。
「やっぱり直接戦闘はかっこ悪いものなんですか?」
「そうだとも。それに、肉体は悪魔にとって借り物。撃退の効率が悪い。魔法で付けられた傷は精神に響く」
「なるほど」
「ムルサイセイヌよ……そのみっともない姿、これ以上さらさないようにしてやろう。ここは我が引き受ける」
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