第22話 二次職

 ルーキータウンにて――――


「ちょっと緊張するな」


 アリサが何度も同じセリフを呟く。


「大丈夫だって。めでたいことなんだから」


 足取りが重いアリサの手を引っ張り、先を急ぐ。


 向かった先は冒険者ギルド。目的はアリサのクラスチェンジ。


 実は【白銀騎士団】がベリグランド迷宮第二層をクリアした昨日、アリサのレベルが8になり、剣術適性がEに上がったのだ。


 二次職である【剣士】のクラスチェンジ条件は剣術E。


 もう二次職もそこまで珍しくはないため、セントラルシティの冒険者ギルドでクラスチェンジをしてもいいかとも思ったが、アリサは俺がクラスチェンジをしたルーキータウンでしたいと言い、ここまでやってきたのだ。といっても転移門ですぐなんだけどね。


 アリサに【真理の書】を渡し、【剣士】にクラスチェンジをすると早速外見に変化が現れる。


 纏う法衣はロングで純白。シンプルでありながらも高貴なデザインで、袖口や裾には繊細な金糸の刺繍が施されていた。刺繍の模様は剣が織り込まれており、布の質感は柔らかく、アリサの動きに合わせて軽やかに揺れる。


 足元を見れば、法衣に隠れ純白のブーツが覗く。アリサが歩くたびにコツコツと小気味いい音を鳴らす。


 これが【剣士】の衣装? 他にも【剣士】となった者を見たことがあるが、もっとみすぼらしかった気がするのだが……。


「ど、どう? なんか私がイメージしてた衣装に近くてビックリなんだけど……」


 もしかしたらニューロギアを介してその人のイメージに合う衣装となるのか?


 だとしたらグッジョブだ。この純白の法衣が花嫁姿に見えなくもない。


「ああ、とても似合ってる。アリサって感じの衣装だな。《鑑定》してもいいか?」


「もちろん」



【名 前】アリサ

【ジョブ】剣士(0/15)

【状 態】良好

【L V】8(2up)

【H P】150/150

【M P】98/98

【筋 力】69(15up)(+20)

【敏 捷】78(18up)

【魔 力】49(7up)

【器 用】78(18up)

【防 御】60(12up)(+10)

【魔 防】60(12up) (+5)

【適 性】剣術E(0/10)

【重 量】59/69

【装 備】鉄の剣

【装 備】旅人の法衣

【アクティブスキル】

・《二連切り》

・《スラッシュ》

【パッシブスキル】

・《索敵》



【剣士】にクラスチェンジすることで、パッシブスキルが追加されると予想をしていたが、何も追加されることはなかった。


 アクティブスキルの《スラッシュ》も剣術適性Eで習得できるスキル。詳細はと言うと、


《スラッシュ》

【MP】5

【CT】60

【威力】-20

【詳細】遠距離の敵に斬撃を飛ばす。


 遠距離攻撃用のスキルで使い勝手がいいが威力が低い。まぁ威力が高いと俺たち魔法使いは何のためにいるの? ってなるからちょうどいいのかもしれないが。


 ちなみにGで覚える《二段切り》は、


《二連切り》

【MP】10

【CT】100

【威力】0

【詳細】高速で繰り出される二連撃。


 と、こちらもなかなかの性能を誇る。


 用を済ませ、外に出ると、男性プレイヤーの視線が一斉にアリサに集まる。


「【花嫁】……じゃないよな……」

「【姫騎士】ということも?」

「おいおい、夢咲香織よりも……」


 注目しているのは男性プレイヤーだけではなかった。


「すみません。それは装備品ですか? ジョブですか?」

「その衣装はどこで買いました?」


 女性としても気になるのだろう。彼女らに対し、アリサが丁寧に事の経緯を教えている。結局一時間ほどルーキータウンに滞在し、セントラルシティの中央広場へ転移する。



 昨日の喧噪が嘘かのように冒険者ギルドは穏やかだった。ほとんどのプレイヤーは迷宮に潜りに行っているからというのもある。


 俺とアリサも昨日のクエスト完了報酬を受け取り、新たなクエストを受注し、外に出ようとしたときにそいつらはやってきた。


 白髪、白髭、大男で槍。【白銀騎士団】リーダーのシルバだ。が、昨日とはまったく装いが違う。


 昨日は軽装だったが、今は全身が金属に覆われている。


 銀色の鎧の各部には装飾が施され、肩には獅子の頭の意匠が彫り込まれており、周囲を圧倒している。手には長い槍。しかし、彼の大きな身体と相まって不自然には見えない。


「おまえは……ユウトだな?」


 突然話しかけられ戸惑うが、


「ああ。あんたがシルバか?」


「そうだ。お前の情報は役に立った。礼として何か一つ教えてやろう」


 初対面でいきなり高圧的な態度を取ってくる。冒険者ギルド内にいた他のプレイヤーたちもシルバの声に気づき、険悪な雰囲気が流れる。


「助かる。これはカウントに入れてほしくないのだが、第二層の情報をどこまで落とした?」


「何も落としてない」


 は? 嘘だろ? そんなことをしたら他のプレイヤーたちのヘイトが一気に集まるぞ!? が、それはどうやら本当のようで周囲のプレイヤーを見渡すと皆が頷く。


「じゃあボスのステータスを教えてくれ」


 マップデータは自分の足で埋めればいいし、二層でたくさんプレイヤーが死んだという情報が入ってきていないから恐らくはそこまで難易度は高くない。


 であれば、第二層のボスのステータスを教えてもらい、第三層のボスの大体の予想をつけておけば他のプレイヤーたちにも役立つのではないかと考えてのだ……が、予想にもしない言葉が返ってきた。


「うちのパーティに《鑑定》持ちはいない。昨日から何度もそう言っているのだが、誰も信用してくれなくてな。別の質問にしてくれ」


 まじか……真偽は別としてそう言われてしまっては仕方ないし、納得できないというプレイヤーがいるのも分からなくもない。


「う~ん。じゃあ特にないかな。ステータスを教えてくれと言っても無理だろうし……」


 考え込む俺にまたも予想外な言葉が。


「俺のステータスだけであればいい。しかし、他言無用で頼む」


 自分のステータスを今日会ったばかりのプレイヤーに教えるだと? どう考えてもシルバはベータテスター。こいつ何を企んでいる?


「いや、であればやめとく。俺に教えた途端にシルバのステータスが出回ったら疑われるのは俺だろうからな。例え【白銀騎士団】のメンバーが漏らしたとしても」


【白銀騎士団】のメンバーにはちょっと悪印象を与える言葉かもしれないが、信用問題になりかねない。


「ふっ、そうだな。ではいいだろう。ユウト、お前から流れる分には構わない……いや、お前から積極的に流してくれ。我々は早くクリアしたいだけだからな」


 シルバはそう言い、目の前の俺にプレイヤーデータを送ってくる。



【名 前】シルバ

【ジョブ】騎士(0/20)

【状 態】良好

【L V】16

【H P】236/236

【M P】135/135

【筋 力】115(+25)

【敏 捷】96

【魔 力】65

【器 用】100

【防 御】104(+40)

【魔 防】88 (+10)

【適 性】槍術F(0/10)・馬術F(0/10)

【重 量】100/115

【装 備】鉄の槍

【装 備】鉄の鎧

【装 備】鉄の盾

【アクティブスキル】

・《二連突き》

【パッシブスキル】

・《HP自動回復》

・《馬心伝心》



《鑑定》とは違い自分のデータを送ってきたのだから、ステータスはすべて見ることができた。レベル16で【騎士】になれたのであれば、間違いなくこいつも【求道者の書】を使ったのだろう。


 その理由は【求道者の書】を使わない限り、最短で【騎士】になれるのはレベル20から。


【馬飼い】からスタートした場合、馬術G(0/5)となり、Fにするまでは5レベルあげないといけない。【槍使い】で槍術の適性が無い状態からFにするまでは14レベル上げないといけないので、なんのアイテムも使わない場合、【騎士】になるのはレベル20からとなるのだ。


 にしても、相当強いな。【騎士】は前衛で魔物の攻撃を引き受ける典型的なタンク。【騎士】としてレベルをあげてないから、攻撃重視に見えるが、これからはどんどん防御と魔防の値が増えていくだろう。


「なぁ? もしかして何も情報を落としてないのではなく、落とす情報が何もないのでは?」


「それも何度も言っているのだがな。理解してくれるプレイヤーが少なくて困っている……おっと、俺たちも出発が近い。ユウト、お前と話をしていると楽で助かる。また話そう」


 俺とアリサの脇を通り抜けクエストの受注をすませるシルバ。


 もしかしたらシルバは喋り方と大きな体から発せられる威圧感でだいぶ損をしているだけかもしれない……まぁ協定というのを破ったからヘイトが向いているというのは否めないが。


「意外にいい人……? だった?」


 冒険者ギルドを出て中央広場へ向かう道中、アリサが問いかけてくる。


「そうだな。協定を破った理由さえしっかりしていれば、将来一緒に潜っていいかもな。その時のヘイト次第とはなってしまうが」


 パーティは別でも一緒に潜ることは可能。選択肢の一つとして残しておくのは悪くない。


 シルバと共闘する際のビジョンを思い浮かべながら転移門を潜った。

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