第11話 攻略
二十日目早朝――――
クエストを受けていつも通り迷宮に潜る。
いつもと違うのは俺の後ろにプレイヤーたちがぞろぞろとついて来ること。こいつらの魂胆は透けている。
俺がボス部屋でピンチになったときに助けて報酬を分けてもらうこと……であればいいのだが、ラストアタックを決め報酬を横取りしようとしているのだろう。
同じパーティであれば、誰が止めを刺そうと魔物のドロップしたアイテムはパーティリーダーのアイテムストレージに入る。
この前俺が手に入れた【真理の書】みたいにだ。ただパーティメンバーもなにがドロップしたのかは分かるためパーティリーダーが黙ってネコババというわけにはいかない。
問題なのは複数のパーティで戦っているとき。
ドロップアイテムは止めを刺したパーティリーダーのストレージに入ることから、一番活躍したパーティがもらえるとは限らない。俺の後をついて来ている奴らは美味しいところだけ狙っているのだ。
恐らく昨日キョウヤが俺に教えてくれた情報をしらないのだろう。誰か一人が死なない限りは出られない。逆を言うと誰か一人が死ぬまではボス部屋に入ってこられない可能性が高い。
だからこいつらがやろうとしていることは無駄なのだ。もし入ってこられるようであればそのときに考えればいいこと。
魔物と
迷宮に入ってから五時間、目の前には装飾が施された大きな両扉。この先にゴブリンキングが待ち受けている。
すでに俺を追う者の姿はない。途中ゴブリンメイジの群れとエンカウントしたとき、一匹も倒さず《ファイア》を浴び続けながらそのまま駆け抜けたのだ。
追ってきたプレイヤーたちはそうはいかないからな。これで邪魔は入らないだろう。
扉を開き、入口付近で立ち止まる。。
慎重に周囲を見渡すが、見えるのはわずか先の床に灯る二つの灯篭。灯篭のぼんやりとした灯りが部屋を揺らすが、その光は奥まで届かない。
意を決して二つの灯篭の真ん中を歩くと、俺の歩く速度に伴い灯篭が
照らされた道筋を警戒しながら進むこと数十歩、俺の歩幅に合わせるように道を作っていた灯篭が勢いよく部屋の奥まで連なると、灯篭のぼんやりとした光が輝きを増し、部屋全体を鮮やかに照らし出した。
その光は壁や天井を滑り、影を踊らせながら、部屋全体を淡い橙黄色に包み込んだ。
幻想的な空間が俺の心を支配しかけた瞬間、重厚な石の玉座に座るゴブリンキングが部屋の奥に出現した。肌は深緑色で、鋭利な角が突き出た黒鉄の王冠が輝き、力と権威を象徴していた。
ゴブリンキングの体躯は人間のそれを遥かに凌駕し、身に纏う黒い鎧は精巧に作られ、手には巨大な戦槌。
紅く光る鋭眼が俺を捉えるとゴブリンキングは立ち上がり、戦闘態勢に移る。
が、それを悠長に見ている俺ではない。
「《ライトニング》!」
「《ウィンド》!」
「《ファイア》!」
「《ウォーター》!」
ゴブリンキング相手にも《ライトニング》の感電は効くようで、硬直している隙に灯篭の回廊を戻り、扉を確認。キョウヤの情報通り、扉は硬く閉ざされ、逃げることはできない。
事前に聞けていて良かった。これを知らなかったら俺はパニックになっていただろう。
視線を正面に戻すと、感電から解き放たれたゴブリンキングが憤怒の面持ちで巨大な体躯を揺らし迫る。
俺たち魔法使いはCTが上がるまで攻撃手段がほとんどない。
だから今のうちに迫るゴブリンキングの鑑定を済ませる。
【名 前】ゴブリンキング
【状 態】良好
【H P】1585/2000
【M P】0/0
【筋 力】???
【敏 捷】60
【魔 力】0
【器 用】50
【防 御】??
【魔 防】70
【アクティブスキル】
・-
【パッシブスキル】
・-
予想通りクローズドベータ版よりも強い。特に筋力、?が三つ並ぶのをクローズドベータ版で見たことがない。まともに喰らったら即死かもしれない。そう考えると恐怖が喉を締め付け、乾いた息を呑み込むたびに喉が渇く。
獲物を狩るかのように、俺の逃げ道を塞ぎながら追い詰めてくるゴブリンキング。
隙さえあれば大きなスペースに逃げ込もうとするも、それは叶わなかった。
俺を追い詰めたゴブリンキングは巨大な戦槌を右手で振りかざす。
そのモーションから叩きつけてくると予想した俺はゴブリンキングの左側に回り込もうとした……が、予想外にもゴブリンキングは戦槌を真横に薙ぎ払う。
バックステップを踏もうにもその大きさ故、回避は不可能。
せめて威力を軽減しようと【木の杖】を体の前で構えるが、あまりもの膂力に【木の杖】はまたも折れ、壁に吹っ飛ばされると、激しい衝撃が体中を貫き、痛みが遅れて襲いかかる。
視界の隅にあるオーバーレイ表示された俺のHPバーが、一瞬で黄色に染まる。その変化はまるで警告灯が灯るかのように鮮烈だった。
即座にポーションを飲み、HPを回復させるが、心に刻まれた恐怖が癒えることはない。
だが、そんなことを言ってられない。次の攻撃に備え、急いで立ち上がり次のゴブリンキングの攻撃に備える……が、予想外にもゴブリンキングは戦槌を薙ぎ払った体勢から復帰できておらず隙だらけ。
なぜ!? と思ったがすぐに閃く――――
ステータスが高くなっていてもシステム的な硬直は変わらず発生しているのか! であれば、勝機はいくらでもある。
「《ウィンド》!」
「《ファイア》!」
「《ウォーター》!」
【木の杖】を折られたことにより魔法の威力は下がっているが、ゴブリンキングの残りHPは1280。《ウィンド》のCTが上がった瞬間に撃てなかったことだけが心残りだが、削れていることは確か。
反省を生かし、
さっきは回避するスペースが潰されてしまったからまともに攻撃を喰らったが、十分背後にスペースを確保し、戦槌を躱せれば、CTが上がる時間を稼げると思ったからだ。
そうとは知らないゴブリンキングは硬直が解けたあと、俺憎しとまたも戦槌を振り上げる。
そのモーションが見えた瞬間、バックステップを踏み、戦槌の攻撃範囲から出ると、予想外にもゴブリンキングはモーションを中止し、俺に近づくため一歩踏み出す。
あくまでも攻撃のモーションが出てからじゃないと戦槌で薙ぐことはしないということか。
敏捷値がもっと高ければいいが、あれ以上引き付けることは不可能。それでも攻撃モーションをキャンセルしてくれるだけでも時間稼ぎにはなる。
何度か攻撃モーションをキャンセルさせることに成功はしたが、またも隅に追い込まれる俺。
ゴブリンキングが獲物を追い詰めたばかりに愉悦の表情を見せ、戦槌を振りかざす。
【木の杖】で軽減できないが、この一撃を耐えることができれば絶対に勝てる。
そう思いゴブリンキングが振りかぶり、攻撃モーションに移ったところで《ライトニング》のCTがあがる。
戦槌の威力が減衰すればいいやくらいの気持ちで、戦槌を持つ太い腕に対し《ライトニング》を穿つ。紫電は瞬く間にゴブリンキングの腕から体中に伝わると、なんと慣性の法則を無視し、戦槌が俺を薙ぐ直前でピタリと止まった。
まさかの出来事に思考が停止しそうになるが、身体が勝手に次の行動をとる。ゴブリンキングの背後にある広いスペースに回り込んだのだ。無我夢中とはまさにこのこと。
次の瞬間、感電から解放されたゴブリンキングの薙ぎ払い攻撃が勢いそのままに誰もいない宙を煽ぐ。薙ぎ払い攻撃は発生したとみなされたようで、振り切った体勢から復帰するのに時間がかかっていた。
その間にも魔法を放ち、ゴブリンキングのHPバーは黄色く灯る。
攻略法さえ見つければ、どんなに強くとも怖くない。あとはパターンに嵌めるだけ。ゴブリンキングの振りかぶりモーションをキャンセルさせながら下がり、《ライトニング》のCTが上がったら薙ぎ払われる直前で放つ。
ゴブリンキングが一際大きな虹色のエフェクトを残し砕け散ったのは、俺がボス部屋に入った十分後のことだった。
-----あとがき-----
ゴブリンキングのステータス
【名 前】ゴブリンキング
【状 態】良好
【H P】2000/2000
【M P】0/0
【筋 力】120
【敏 捷】60
【魔 力】0
【器 用】50
【防 御】70
【魔 防】70
【アクティブスキル】
・-
【パッシブスキル】
・-
-----あとがき-----
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