第10話 前日

「聞いたか? 今日未明ボス部屋に挑んだパーティがいたらしいぞ?」


 キョウヤにまさかの言葉で殴られたのはボス部屋攻略を翌日に控えた十九日目の夕方ことだった。


「なっ!? 【レジェンド】のやつらか!?」


「いや、【解放戦線】と【最前線攻略班】の二パーティ合同とのことだ」


 【解放戦線】と【解放戦線】はそれぞれベータテスターがリーダーとなり結成されたパーティ。今の立ち位置は上の中といったところ。


「ボス撃破の通知が来てないということは……?」


 キョウヤが頷いて見せる。失敗ということだ。


「そこでちょっと耳寄りな情報を手に入れてな」


 キョウヤが左手の掌を俺に見せる。これから先は有料情報ということ。


 最近こうやってキョウヤから情報を買うことがしばしばある。メニュー画面からキョウヤに500ゴールド送金すると、キョウヤもメニュー画面を開く動作を見せ、入金されたのを確認してから答える。


「一層のボス部屋は誰か一人が死なない限り出ることはできないらしい。ボスはクローズドベータ版と同じくゴブリンキングだが、俺たちの予想通りクローズドベータ版よりもはるかに強いらしい。剣使いと神聖魔法使いが二人ずつ。あとは槍、斧、火、風、水、土が一人ずつのパーティで挑んだと【最前線攻略班】のリーダーが言っていた」


 一人が死なない限りボス部屋から出られないだと? ゴブリンキングがクローズドベータ版よりも強いのは予想がついていたが、変更点が多いな。


「にしてもなんで今日アタックしたんだ? パーティを組んでいる奴らの装備が揃っているとは思えないのだが?」


 パーティを組むと長時間潜ることは可能だが、経験値がその分分散され、ゴールドも同じ。


 だから俺やキョウヤのようにソロでも長時間潜れるプレイヤーと比べるとレベルも装備も劣るのは必然なのだ。


「どこかの誰かさんが装備を揃えてもう五日、そろそろボス部屋にアタックするのではないかと噂になっているからな」


 明日ボス部屋にアタックするということは誰にも言ってない。当然キョウヤにも。


 それでもプレイヤーたちは俺がアタックするというのを肌で感じるのだろう。


「それにレッドキャップを倒してなお、迷宮に留まることができるというのを目撃されているからな。アタックすれば確実にクリアされると思って焦ったんじゃないか?」


 五日前にレッドキャップを倒して以降も遭遇し、他のパーティがレッドキャップと戦うたびに死人を出している中、俺はこれまで計四体倒すことに成功。


 そこをたまたま見られてからというもの、俺を監視する奴が増えてしまった。


「かもな、有益な情報があればまた買い取る。じゃあな……」


 明日に備え早めに休みたいから話を切り上げようとすると、キョウヤが止めた。


「待て。最後に一つお前に頼みがある」


「なんだ? 頼みなんて珍しいな」


 俺とキョウヤはドライな関係。何かあれば先ほどみたいにお金で解決だったのだが……。


「フジコという女を探している。将来必ず最前線までくる女だ。接触したら必ず教えてほしい」


「容姿は? 今のジョブは?」


 問いかけるとキョウヤは首を横にふる。


「分からない。だが俺が探し求めているフジコであれば報酬は弾む」


「分かった、だが報酬はいらない」


「ん? どうしてだ?」


 フードとマスクで隠されているキョウヤの眉間に皺が寄る。


「俺も女を探している。どんな名前でインしているかは不明だが、キャラメルブラウンの髪は長くてストレート。恐らくだが剣を扱うジョブについていると思う。見分け方は簡単、とにかくかわいい。それだけだ」


 真面目に話したつもりだがキョウヤはツボにはまったらしい。初めて聞く笑い声は隠された顔の奥が俺と同じくらいの年齢かと思わせた。


「お互い雲をつかむような話だな。分かった、俺もその女を探そう。フレンド登録していいか?」


 スナップを利かせてメインメニューを開き、ウィンドウを何度かタップして俺にフレンド申請をするキョウヤ。


 フレンドになると個人間でチャットでできるようになり便利。最初にフレンド登録するのは有紗が良かったが、そんなことは言っていられない。


 フレンドを承認すると、 「健闘を祈る」という言葉を残して、キョウヤが街に溶け込む。


 俺も宿に戻るメインメニューを開き、まずは自分のステータスを開く。



【名 前】ユウト

【ジョブ】雷魔法使い(9/14)

【状 態】良好

【L V】10(2up)

【H P】90/130

【M P】0/200

【筋 力】60 (6up)(+5)

【敏 捷】70 (8up)

【魔 力】130 (20up)(+10)

【器 用】70 (8up)

【防 御】60 (6up)(+10)

【魔 防】90 (12up)(+5)

【適 性】火魔法G(9/10)・風魔法G(9/10)・水魔法G(9/10)・雷魔法F(2/7)

【重 量】60/60

【装 備】木の杖

【装 備】旅人の法衣

【アクティブスキル】

・《ライトニング》

・《ファイア》

・《ウィンド》

・《ウォーター》

【パッシブスキル】

・《鑑定》



 レベル11まで待てば火魔法、水魔法、風魔法のCTが10%軽減されると思うが、そこまで待つとさすがに他のプレイヤーにクリアされてしまう。


 熟考した結果明日潜ることにしたのだ。


 ステータスの次は【真理の書】をタップして表示されている二次職を確認する。


・(雷鳴士):雷魔法の魔法適正がE以上


 まだグレーアウトしており、これ以上タップすることはできない。クローズドベータ版ではレベルアップしたときのステータス上昇率が分かったのだが、それも分からなくなっていた。


 当然目指すは【雷鳴士】。ただでさえ強い【雷魔法使い】の上位互換と思わせるようなジョブ名だからな。


 しかし、それもこれもすべては明日次第。


 待ってろ有紗! 明日には俺の名前をお前のウィンドウに表示させてやる――――。

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