第9話 ユニークモンスター
――――十四日目
数日前のセントラルシティが嘘のよう。
街を往来していたNPCはめっきり姿を見せなくなり、代わりに夢を語るプレイヤーが昔からここに住んでいたかのように歩く。
至るところでプレイヤー同士の交渉が行われ、中には怒声や物が壊れる音が聞こえてくる。街はPK禁止区域だからHPが減るような行動はシステム的に制限されるから安全なのだが心地よいものではない。
そんな街の様子を傍目に迷宮に潜ると、通路や小部屋などは他のプレイヤーたちでいっぱいだった。ついに狩場争いが始まったのだ。
友好的に狩場を共有できればいいが、十億がかかっている。強者は弱者を脅し、弱者は徒党を組んで強者を追いやる。街とは違い実力行使するプレイヤーが散見された。
俺の狩場である、一度でたくさんの魔物が出る大部屋が他のプレイヤーで埋め尽くされるのも時間の問題かもしれない。
もっとも他のプレイヤーたちも満足に狩りができないのでレベルが上がるのには時間がかかるだろうが。
そんな中、ゴブリンたちを狩っているとレベルアップの後が頭に鳴り響く。
【名 前】ユウト
【ジョブ】雷魔法使い(7/14)
【状 態】良好
【L V】8(1up)
【H P】114/114
【M P】170/170
【攻撃力】54 (3up)(+5)
【敏 捷】62 (4up)
【魔 力】110 (10up)(+10)
【器 用】62 (4up)
【防 御】54 (3up)
【魔 防】78( 6up)
【適 性】火魔法G(7/10)・風魔法G(7/10)・水魔法G(7/10)・雷魔法F(0/7)
【重 量】35/54
【装 備】木の杖
【アクティブスキル】
・《ライトニング》
・《ファイア》
・《ウィンド》
・《ウォーター》
【パッシブスキル】
・《鑑定》
ようやく雷魔法の適性がFに。
もしかしたらという期待を込めてウィンドウを開くも新しい魔法は習得していない。
やはり適性Fに上がる恩恵は雷魔法のクールタイム10%減のみだった。
肩を落としながら深部へ向かって通路を歩いていると、違和感を覚える。
あれ? ぼんやりとした緑色の上に赤いのが見えるぞ?
警戒しながらゆっくり近づくとそのシルエットが露になる。
小さくひょろい印象のゴブリンに対し、こいつは小さくとも体はがっしりしている。目は鋭く燃えるように赤い。
右手には斧を携え、何よりも特徴的なのは頭に被った帽子。帽子は血に染まったような赤で、少し離れたここでも血の臭いが漂ってくる。
間違いない! こいつはユニークモンスター、レッドキャップだ!
【名 前】レッドキャップ
【状 態】良好
【H P】500/500
【M P】300/300
【筋 力】??
【敏 捷】??
【魔 力】50
【器 用】30
【防 御】50
【魔 防】50
【アクティブスキル】
・《ファイア》
【パッシブスキル】
・-
クローズドベータ版では一度もお目にかかることはなかったが、まさかここにきてとは! 筋力はともかく敏捷が俺よりも高いとは厄介な! しかも魔法まで使ってくるのか!
焦る俺に対し、レッドキャップは不敵な笑みを浮かべて迫ってくる。
しかも左手を前に掲げながらだ。
とんできたのは言わずもがな《ファイア》。しかし狙いは甘く、なんなく躱せたが、その間にレッドキャップが猛進してくる。
ここは出し惜しみしている場合じゃない!
俺も右手を掲げ、
「《ライトニング》!」
通路に俺の声が轟くと、右手から放たれた紫電がレッドキャップを穿つ。
轟音と共に着弾すると、レッドキャップはその場で感電。
動けなくなる時間は五秒! その間に魔法を撃ちまくる。
「《ファイア》!」
「《ウィンド》!」
「《ウォーター》!」
火、風、水魔法を唱えるも、止めを刺しきれずレッドキャップの状態異常が切れる。
レッドキャップの頭上に表示されてたHPバーは赤、鑑定すると残り50。
あと一発! あと一発撃てれば俺の勝ち!
努めて冷静になろうと、突進してくるレッドキャップ相手に背中を見せることなくバックステップを踏みながら距離を取る。
が、レッドキャップの方が敏捷値は高い。しかも俺はバックステップ。
俺との距離はあっという間に縮まり、レッドキャップが斧を振りかぶる。
躱せない! 瞬時にそう判断した俺は手に持っていた【木の杖】でパリィしようとするも、無常にも【木の杖】を真っ二つにしながら、俺の胸元にレッドキャップの一撃が届く。
ぐっ! 斬られた胸の部分が熱を帯び、痛みが襲う。
ニューロギアを介して痛みが脳に伝わっているのは分かるが、クローズドベータ版よりも間違いなく痛い。
よりリアルに調整したということか! クソ運営め!
さらに追撃をしかけこようとまたも斧を振り上げるレッドキャップ。
しかし、それよりも先に俺のCTの方が先に上がった。
「《ウィンド》!」
《ウィンド》のCTは20秒。他の魔法よりも威力が低い分、CTは短い。
直撃した瞬間、振り下ろそうとしていた斧は消え、目の前のレッドキャップは鮮やかなエフェクトを残し砕け散った。
危なかった……。
手には汗をかき、胸の痛みも先ほどよりも鮮明に覚える。
にしてもユニークモンスターってこんなに強かったのか?
クローズドベータ版の話を聞いた限りでは、ご褒美モンスターと呼ばれていたはずだが……もしかしたらこれも調整されたのか?
だとしたら階層ボスも調整が入った可能性があるな。
レッドキャップの残滓が完全に消え、HPを回復させようとアイテムストレージに並ぶポーションを取り出した瞬間、入れ替わるように新たなアイテムが並んだ。
これは……もしかして?
アイテムをタップし詳細を見ると、
【名前】真理の書
【重さ】1
【効果】二次職へのクラスチェンジアイテム
レッドキャップのレアドロップの一つ! 大当たりだ。
使うのはまだまだ先だろうが、これがないと『魂の監獄』の醍醐味は味わえない。
まだポーションとマジックポーションに余裕がある。
レッドキャップも倒したし、ワンチャンレベルアップするかもしれない。
そうすればさらに潜る時間が伸びるかもしれないと思った俺は、更に深部を目指すのであった。
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