第8話 プレイヤーたち

 ――――十三日目


「お前、もしかしてゴブリンメイジの《ファイア》の被ダメ0か?」


 朝から迷宮に潜り、無心でゴブリンたちを倒していると、背後から突然声をかけられた。


「盗み見するとはいい趣味だな」


 振り返るとそこにいたのはやはりキョウヤだった。


 今の戦闘をキョウヤに見られたか……まぁ魔法使いであれば遅かれ早かれ魔法防御がゴブリンメイジの魔力と《ファイア》の合計値を越えるからな。


 ダメージを喰らっても一桁だ。


 ちなみにゴブリンメイジのステータスはこんな感じ。



【名 前】ゴブリンメイジ

【状 態】良好

【H P】100/100

【M P】50/50

【筋 力】30

【敏 捷】20

【魔 力】40

【器 用】10

【防 御】20

【魔 防】30

【アクティブスキル】

・《ファイア》

【パッシブスキル】

・-



 前衛のジョブに就いているとやはり《ファイア》のダメージは怖い。


 特に【コソ泥】なんかは魔防が上がりにくいジョブだからな。


「無傷ではないがかすり傷程度だ。あと今みたいに突然背後にいると、魔物と勘違いでして撃ち抜く可能性があるから今度からやめることだ」


 一応警告をしてからこの場を離れる。


 いつも受けている三つのクエストをクリアして街に戻ったのは昼ごろ。


 転移門から冒険者ギルドに向かおうとすると、転移門に向かってくるプレイヤーたちとすれ違う。


 ほとんどがソロプレイヤーみたいだが、中にはパーティを組む者たちの姿も。当然有紗の姿はなかった。


 パーティを組んだ奴らがもう来たのか……俺よりも早く一層をクリアするとすれば、俺と同じベータテスターかパーティを組んだ者たちだろう。


 俺も誰かと組んで潜るべきかと悩んだが、結局はボスを倒した後が怖い。


 どんなにルールを決めても初回討伐報酬を誰が貰うかとか、レアドロップはどうするかとかで揉めるのは目に見えている。


 ゲームであればまだいいが、俺たちにとってここは現実リアル


 揉めて後ろから刺されたらゲームオーバーなのだ。ゲームのようにアイテム全ロストですまない。だから組む相手を慎重に選ぶのは当然の話。


 組むのであれば有紗だけ……あるいは俺と有紗の二人が本当に認めた者だけだ。


 が、パーティを組んでいるプレイヤーの話を聞いていると不安に駆られる。


 こうしちゃいられない。すぐに迷宮に潜るか。


 再度迷宮に潜っていると前方で戦闘をしている気配を感じる。


 悪いと思いながらも近寄ってみると、キョウヤがゴブリンとゴブリンメイジを相手に戦っていた。


 ゴブリンメイジの《ファイア》の射程に入るか入らないかの距離で待機し、《ファイア》を撃ってきたらバックステップを踏む。


 魔物とはいえゴブリンメイジにもCTはある。その隙にゴブリンに斬りかかり、ゴブリンメイジのCTが上がりそうになったら退避を繰り返す。


「盗み見か? いい趣味だな」


 戦闘を終えたキョウヤが話しかけてくる。


「いや、キョウヤは俺に気づいていただろう? だから盗み見じゃない」


「ふっ、まぁそうだな」


 短い会話を交わし、お互いがそれぞれ別の狩場へ向かう。



 昼以降はゴブリン、ゴブリンメイジを十体以上ずつ倒してもクエスト完了報告をしにわざわざ冒険者ギルドに寄ることはしなかった。


 ある程度ゴールドは貯まり、次に買おうとしている【旅人の法衣】分は用意してある。


 それでも買わないのは装備品に重さがあるから。


【旅人の法衣】の重さは25。俺の筋力は51だから【木の杖】と【旅人の法衣】を装備してしまうと、ポーション一つしか持てなくなり心許ない。


 これもゲームの世界であればポーションなしでも挑んでいたかもしれないが、一度死んだらゲームオーバーという現実を突きつけられて、それを実践できるものは少ないだろう。


 何よりごく稀に出現するユニークモンスターと遭遇したときのことも考えてだ。


 ユニークモンスターのドロップはどれも貴重なものばかり。


 遭遇したはいいものの、MPがなくて倒せませんでしたでは後悔しきれないのだ。



 日が暮れる時刻まで狩りを行い、街に戻ってからクエスト完了報酬を受け取る。


 冒険者ギルドを出ると、俺を待ち構えるかのようにキョウヤが立っていた。


「ユウト、お前【レジェンド】ってパーティギルド知っているか?」


「あのMMO専用ギルドか?」


 聞きなおすとキョウヤが頷く。


【レジェンド】はどのMMOやってもトップ、または上位に食い込んでくるこの界隈にいれば一度は聞いたことがあるパーティだ。


「その【レジェンド】のプレイヤーが一部参加インしているのをさっき確認してな。全員は参加インできなかったようだが、もしかしたら何人かは『魂の監獄』に参加しているかもしれない」


 マジか!? 言ってみればMMOのプロチームみたいな奴らだぞ!?


 しかも最近裏ではあまりよくない噂も聞く。トップを取るためにはチートまでとはいかないが、不正行為グリッチを使い優位に進めたり、暴言を吐いたり。


 自分と関わらないのであれば心強いが、前線にいる限り気を抜けない。


「ただ一つ安心できる材料があるとすれば、【レジェンド】のメンバーは誰一人、クローズドベータ版に参加できなかったようだ。あいつらが参加すると仲間内で情報を共有し、秘匿性に欠けるのを考慮してと言われている」


 それでも警戒しなければならない相手ということは確かだ。


「そして、同じくらい厄介な奴らがいる。夢咲香織っても知ってるか?」


「夢咲……香織……?」


 今度はまったく聞き覚えのない名前だった。


「その様子じゃ知らないようだが、今人気の女性アイドルでグラビアもやっているんだが、夢咲香織もどうやらインしているってさっきこの街に来たプレイヤーたちが騒いでいてな。一緒のパーティを組んでクリアしたらデートしてもいいとちらつかせているらしく、トップを取らせるために闇落ちを宣言するファンもいるらしい」


 姫プまがいのことをしている奴らがいるということか。


 女のために人生を投げうつなんてバカなことを……と思ったが、それは俺も同じ、いや俺はそれ以上。


 何度も振られた有紗のためにこの『魂の監獄デスゲーム』に参加しているのだから。


「サンキュ、これでさっきの盗み見はチャラにしてやるよ」


 もっと潜るペースを上げなくては。


 明日から昼に戻るようなことはせずに深部まで進むことを誓い宿に戻った。

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