第19話 二人の連携

 辿り着いたのはボス部屋付近の大部屋。


 ここから先はゴブリンたちが多数出現する狩場スポット。しかし、今は誰もいない。ここで狩りを行っていた前線組はもう2層の別の狩場に移動しているのだろう。


「で? IGLはユウトに任せていいのよね?」


【鉄の剣】を片手にヤル気満々のアリサ。しかし、俺の答えを聞いて端正な顔立ちをした横顔が曇る。


「ああ、だが先に言っておく。俺はどのゲームでもIGLをしたことがない」


「えっ!?」


 驚くアリサ。


 俺がゲームの世界に逃げ込んだ理由は、目の前にいるアリサ。両想いだと信じていたのに何度も振られたことで、他の人と関わるが怖くなってしまったのだ。


 しかし、今はそんなことを言っていられる状況ではない。


「俺もアリサの隣で戦うからしっかりとした指示は出せないかもしれない。最初は上手くいかないかもしれないから、まずは肩の力を抜いて八割くらいの力でやろう」


 が、俺たち二人にそれは杞憂だった。


 俺たち二人には声を掛け合う必要などなかったのだ。


 部屋の薄暗い光の中、アリサのキャラメルブラウンのの髪が一瞬きらりと輝く。その瞬間、言葉を交わすことなく、俺たちは同時に動き出した。


 アリサが前へと一歩踏み出し、軽やかにゴブリンに向かって突進する。俺はその背後からすぐにフォローに入り、アリサが一体目を斬り抜けると、アリサに気を取られたゴブリンの頭に俺が剣を突き刺す。アリサが左に回り込むと、俺は自然と右側をカバーし、アリサが敵を引きつける間に俺が背後から攻撃を加える。俺たちの間にあるのは無言の信頼だけ。


 今度は俺が斬りかかると、アリサが後ろから援護する。まるで長年連れ添って来たパートナーのように、俺たちは互いの動きを読み合い、完璧なタイミングで攻撃を繰り出す。


 さらにゴブリンの群れが押し寄せるが、俺たちは動じることなく次々と敵を撃退していく。アリサは一度も振り返ることはなかったが、それは俺も同じ。俺にはなぜかアリサの次の行動が解り、何をしてほしいのかも不思議と理解できた。


 最後のゴブリンを倒すまで俺たちは一言も発せず、一度も目を合わせることもなかった。


 前に立つアリサが微笑みと共に振り返り、桜色の唇が久しぶりに開く。


「なんか……息ピッタリだったね」


「そう……だな。まさかここまでうまくいくとは思いもしなかった。だが次も同じようでできるとは限らない。何度も繰り返しこいつらで連携力を強化しよう」


 その後も夢中になってゴブリンたちを狩り続けたが、一度も連携を取り損ねることはなかった。


 ゴブリンメイジの魔法はすべて俺に飛んでくるようにヘイト管理をし、その間アリサは俺の周囲に迫るゴブリンたちを押しのける。戦えば戦うほどに連携は洗練されていき、ゴブリンたちを屠る速度もあがる。


 傍からみればRRealTTimeAAttackをしているのではないかと思うほどに。


 あまりにも上手くいきすぎているため、途中でストップをかけ、魔物がポップしにくい場所で壁を背に腰を下ろす。


 俺たちの身体は疲れて動けなくなるということはない。だが、精神的な疲労は貯まる。精神的な疲労が重なると判断力は鈍り、時にはまともな判断を下せなくもなる。


 疲労に慣れておく必要もあるのだが、今は連携力の強化に努めたい。


「戦ってきたなかで質問とかあったら今のうちに聞いてくれ」


 隣に腰を下ろすアリサに訊ねる。


「私たちの連携に関しては完璧……? だよね?」


「固定パーティを組んだことがないけど、多分どのパーティよりも意思の疎通はできている気がする」


 しかし、油断はできない。なぜならあの時も必ずアリサは俺の告白に応えてくれると思ったから。


「パーティメンバーって増やすつもりあったりする?」


「難しい質問だな。できればアリサと二人だけでやっていきたいという思いはあるがいずれ限界は来ると思う。その時に備えて今のうちに何人かと友好な関係は結んでおきたいとは思ってるが、アリサはどう思う?」


「私は……できることであれば……ううん、なんでもない」


 言葉を飲み込むアリサ。


「なんだよ、俺とアリサの仲だろ? 言ってみろよ」


 少し空気が重くなったので茶化すように肘でアリサの肘をつつく。


「本当に大丈夫。私もユウトと同じだから」


 急にアリサの心のシャッターが閉じられ、思考が読めなくなる。これ以上の詮索はやめておくか。人間誰しも一つや二つはある。それは俺も同じだからな。


「分かった。じゃあこれ以上は聞かない。狩りを始めるか」


 心のシャッターを閉じられたことで連携が取れないかとも思ったが、それも杞憂に終わる。


 再び狩りを始めた俺たちは、今まで以上に息が合っていた。アリサの動きに合わせて俺が攻撃を繰り出し、俺の動きにアリサが瞬時に反応する。まるで一体の生き物のように、俺たちは完璧な連携でゴブリンたちを次々と倒していった。


 疲れの限界がくるまで狩り続けようかと思っていた矢先、突然視界の上部に文字が表示される。


「ユウト!? これって!?」


「ああ、やってくれたな!」



 ベリグランド迷宮二層踏破

 ハーティ名【白銀騎士団】

 パーティリーダー名【シルバ】



 これがプレイヤー間の火種になるとはまさか思いもよらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る