第21話 目標
アリサと中央広場まで一緒に転移すると、そこには無数のプレイヤーが集まっていた。
俺が一層をクリアしたときのように、皆がクリアした【白銀騎士団】のメンバーを祝福しているのだろうと思っていたが、どうやら違うようだ。
「おい! なぜクリアしたんだ!?」
「あと五日は待つという話だよな!?」
「ボス部屋に入る権利はお前らにはなかったはずだ!」
怒号の先にいたのは、白い髭を蓄え、白髪を後ろで結った【槍使い】と思われる30代くらの大男。その男はパーティメンバーと思われる者たちを連れ、何も答えずに冒険者ギルドへ向かっていた。
その男を追うように、プレイヤーたちが冒険者ギルドに雪崩れ込む。
「ねぇ? 何が起きてるの? あの人がクリアしてくれた人っぽいよね?」
「俺にもよく分からないが、あまりいい雰囲気ではないということは確かだ。明日冒険者ギルドに寄るとして今日はもう飯にしよう」
いざこざに巻き込まれなくない俺たちは、すぐに別の場所を目指すと、目の前に立ちはだかる男が。
アリサがその男を見ると慌てて頭を下げる。
「あ!? あのときの!? その節はお世話になりました」
素顔を隠した男のマスクが震える。
「やっぱりユウトの探し人はアンタだったか」
目の前に立ちはだかったのはキョウヤだった。
「キョウヤ、これは何の騒ぎか分かるか?」
俺の質問に無言で手のひらを差し出すキョウヤ。
いつものようにキョウヤに入金すると、
「街の外れにあるレストランで話そう」
キョウヤの提案で別の場所で話すことに。
「ユウトには前に言ったよな? お前が第一層をクリアしたらユニークモンスターがポップしづらくなったと」
頷き、キョウヤの言葉を待つ。
「だからプレイヤーたちはボスを倒すとユニークモンスターがポップしないと思い、【真理の書】がある程度行き渡るまでボス部屋に入らないよう協定を結んだんだ」
「もしかして【白銀騎士団】はその協定を破ったのか?」
「ああ、でもあれはいつか起こること。理由は簡単。【白銀騎士団】に待つ理由がなくなったからだ」
【真理の書】を人数分確保できたということだな。
「実は【白銀騎士団】の他にもボス部屋に入ろうか迷っていたパーティがいくつかあった。しかし、協定という名の同町圧力に屈しそれをしなかったんだが、【白銀騎士団】はそれを実行したというわけだ。三層以降はさらに競争が激しくなるぞ」
ヘイトが自分たちに向いても構わないということか。自信があるのか、バカなのか。
「【白銀騎士団】という奴らの構成は?」
「前衛はまだ全員が基本職だったと思う。珍しく後衛から先に二次職になったパーティで、【槍使い】【斧使い】【斧使い】【水魔導士】【土魔導士】【僧侶】だ」
「その構成……ベータテスターか?」
「俺はそう思ってる。前衛三人が目指すのは【騎士】だろうな」
やっぱ考えることは同じか。
「あと、何か他にあった教えてくれ」
もう聞きたいことは聞き終わった。キョウヤのステータスにも興味はあるが、変に探って関係がこじれるのも面倒だ。
「そうだな……二次職になってレベルが上がりづらくなった。これは他のプレイヤーも口をそろえて言っているから間違いない」
まぁ俺もそれは実感していたが、長期的な目で見ると絶対に基本職でレベルを上げるのはNGだ。
話をそこそこに切り上げ宿に戻ると、宿付近では【白銀騎士団】への怒りがまだ収まらないのか騒いでいる奴らの姿があった。
「ねぇ? 今日はあの宿はやめない?」
「そうだな。治安も悪そうだし今日は気分転換で違うところに泊まるか」
セントラルシティの夜をぶらぶらしながら宿を探す。
「この世界って宿泊施設は宿しかないの?」
「そんなことないぞ。個人で家も買えるし、パーティ用のギルドホームもある。アパートメントもあるし、迷宮に入り浸りたいというのであれば、テントやコテージも……」
まだ説明途中だったが、アリサが俺の言葉を遮る。
「じゃあ家を買おうよ。食事も作りたいし、くつろげるスペースもほしくない? 今は迷宮に潜ることだけで頭がいっぱいだけど、攻略に煮詰まったりしたときリラックスしたいと思わない?」
「えっ!? た、確かにそう思うけど……」
別々に家を買うってことだよな? 同棲ってわけじゃないよな? キョドる俺に対し、
「ユウトは私の手料理食べたくない?」
追い打ちをかけてくるアリサ。
「そりゃあ食べたいよ。食べたいけど……」
真意が分からない。
「じゃあ決まり! 小さくてもいいから家を買おう!」
「分かった。いいけど小さい家にしてもべらぼうに高いぞ?」
「まぁ家だからね。でもクリアするよりかは楽でしょ? 近くに目標があればそれだけで頑張れるじゃない」
それはそう。あまりに目標が遠すぎるとヤル気が失せるからな。
「じゃあ、明日迷宮から戻ったら家の内見行ってみるか」
「賛成! 今から楽しみ!」
次の宿を探しながら、アリサとどんな家が理想かを語り合う。その会話は自然と笑いが絶えず、温かい気持ちに包まれる。このまま宿が見つからず、ずっとこの時間が続けばいいのにと、俺は密かに願っていた。
セントラルシティの夜風が心地よく、星空の下で彼女と未来を描くひとときは、冒険の日々を忘れさせてくれるひとときだった――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます