第13話 雷鳴士

「やったな」


 二層入口の転移門から中央広場に戻るとキョウヤが俺に向かってグータッチを求めてくる。その周りには中央広場を埋め尽くすほどのプレイヤーの姿が。


「知っているということは……?」


「流れたさ、お前パーティ結成していたんだな」


 よし! クローズドベータ版と変更されて、パーティ名とリーダー名がプレイヤーの視界に表示されなかったらどうしようかと不安になっていたのだ。


 これで有紗には伝わったはず。俺がこの『魂の監獄』にインしているということ、さらにはセントラルシティにいるということが。


「こいつらがボスの情報とか聞きたいっていうんだがどうする?」


 キョウヤが周りのプレイヤーを見ながら俺に問いかける。ここで選択肢を間違えてはいけない。俺の行動でこれからのプレイヤーたちの行動が変わってしまう。


「もちろん。マッピングした情報も出す。俺個人の情報は出さない。それでいいか?」


 俺の答えに満足したのか集まっていたプレイヤーたちは納得の表情を見せる。


 本当は俺のジョブや攻略時のステータス、スキル構成なども教えたい。しかし、それをしないのはPKが怖いからだ。これがただのゲームであれば教えていたのだが、命がかかっているのでそうはいかない。


 それを分かっているからこそ、ここにいるプレイヤーたちも俺の答えに満足したのだ。


「あとはキョウヤから皆に頼む。疲れたから先に休ませてもらう」


 ゴブリンキングを鑑定した結果と一層のマッピングデータをキョウヤに共有する。鑑定結果から俺のステータスがある程度バレるが、そこは仕方ない。


 ゴブリンキングを倒した達成感と高揚感でなかなか寝付けないかと思いきや、緊張の糸が切れたのか泥のように眠りについた。



 ――――翌日


 起き抜けにアイテムストレージを開く。


 ゴブリンキングとの戦闘で得たアイテムの確認のためだ。


 結論からいうと、得たアイテムは二つ。


 一つは三冊目となる【真理の書】


 そしてもう一つがこの【求道者の書】だ。

 

【名前】求道者の書

【重さ】1

【効果】習得している適性を1つレベルアップできる


 正直これを手に入れたとき二度見したほど。心を落ち着かせてから使用した方がいいと判断し、早く使いたい気持ちを抑えて眠りについたのだ。


 しかし、何度見ても効果は変わらない。やはり適正が上がるのか。


 で、あれば上げるのは雷魔法。あとレベル4上げれば自力で適正Eまで上がるが、クラスチェンジはできるうちにした方がいい。


【求道者の書】を使用し、ステータスをチェックする。 



【名 前】ユウト

【ジョブ】雷魔法使い(10/14)

【状 態】良好

【L V】11(1up)

【H P】138/138

【M P】215/215

【筋 力】63 (3up)

【敏 捷】74 (4up)

【魔 力】140 (10up)

【器 用】74 (4up)

【防 御】63 (3up)(+10)

【魔 防】96 (6up)(+5)

【適 性】火魔法F(0/10)・風魔法F(0/10)・水魔法F(0/10)・雷魔法E(0/0)

【重 量】34/60

【装 備】旅人の法衣

【アクティブスキル】

・《ライトニング》

・《ファイア》

・《ウィンド》

・《ウォーター》

・《ライトニングウォール》

【パッシブスキル】

・《鑑定》



 ん? 雷魔法E(0/0)だと? これはもう雷魔法の適性がカンストしたということか? クローズドベータ版ではこんなことなかった。もしかしたら雷魔法使いだけこうなるのか?


 分からない――が、もう【求道者の書】を使ってしまった。ここで後戻りすることはできない。


 また、雷魔法がEになったことで《ライトニングウォール》という魔法を習得した。


《ライトニングウォール》

【MP】200

【CT】600

【威力】0

【詳細】周囲に10秒間雷の壁を作る。100%の確率でを付与


 なんだこの消費MPとCTは……? それに対しての威力が伴ってなさすぎる。


 雷魔法を上げたのは間違いだったか?


 後悔と不安、わずかばかりの希望を胸に冒険者ギルドに足を運ぶ。


 扉を開けると、プレイヤーたちの視線を一身に浴び、さらにお祝いとお礼の言葉が。


「悔しいけど次は負けないからな!」

「マッピングの共有助かった!」


 こんな奴らだけだったら喜んで知っている限りのことを教えるが、少なからず俺の事を妬んだり僻んだりするプレイヤーがいるのは事実。


 そういうプレイヤーは俺から少し離れたところで睨みつけてくる。


 性格の悪い運営のことだ。きっとこういうのも考慮して報酬を授けると発表したのだろう。


 人がいなくなるのを待ってからクラスチェンジしようと思ったのだが、その気配は一向にない。むしろ人が増えていくばかり。


 であれば、仕方ない。

 

 中央広場の転移門から今まで寄ってきたレイクタウン、ポーロタウン、そしてルーキータウンへ転移する。冒険者ギルドに人がいない街でクラスチェンジしたかったのだ。


 レイクタウンはプレイヤーの数こそ少なかったが、冒険者ギルドには絶えず二、三十人のプレイヤーが常駐していた。


 ポーロタウンはレイクタウンよりもプレイヤーの数は多かったが、冒険者ギルドの中には十人くらい。


 意外だったのがルーキータウン。三つの街で一番プレイヤー数が多かったが、冒険者ギルドの中はまばら。下手すれば〇人になるときがあるのではないかと、思うほど。


 完全に攻略を諦めた者たちがここに留まっているのかもしれない。



 そしてその時はやってきた。


 街の賑わいが嘘かのように、ここだけは誰もいない。まるでここだけが隔離された別世界のようだ。


 冒険者ギルドの受付嬢の前に立ち二次職を選択。もちろん選んだのは【雷鳴士】。


 ちなみにだが、グレーアウト状態の(火魔導士)、(風魔導士)、(水魔導士)もあったが、もちろんスルー。


 アイテムストレージの【真理の書】が一つ消失すると同時に、光の奔流に飲み込まれると視界が白く染まる。しばらくすると、視界が元に戻り、身体に新たな力が宿った感覚があった。



【名 前】ユウト

【ジョブ】雷鳴士(0/20)

【状 態】良好

【L V】11

【H P】153/153

【M P】245/245

【筋 力】69 (6up)

【敏 捷】81 (7up)

【魔 力】156 (16up)

【器 用】81 (7up)

【防 御】69 (6up)(+10)

【魔 防】101 (8up)(+5)

【適 性】火魔法F(0/12)・風魔法F(0/12)・水魔法F(0/12)・雷魔法E(0/10)

【重 量】34/69

【装 備】旅人の服

【アクティブスキル】

・《ライトニング》

・《ファイア》

・《ウィンド》

・《ウォーター》

・《ライトニングウォール》

【パッシブスキル】

・《鑑定》

・《雷の加護》(0/20)



「これが……【雷鳴士】の力か」


 ステータス上昇率を見ると、【雷魔法使い】より圧倒的に高いが、適性はすべて上がりにくくなっている。


 さらに新たなパッシブスキルを習得していた。



《雷の加護》

【詳細】雷属性の攻撃を10%軽減し感電無効、雷属性の攻撃力を10%増加



《雷の加護》(0/20)と表示されているのは予想するに【雷鳴士】で20レベル上げると、クラスチェンジした際にも引き継がれるということだと思われる。


 二次職へのクラスチェンジを見たことも聞いたこともないから正直これが強いのかは分からないが、確かな手ごたえを感じる。


 目的のクラスチェンジを終え、冒険者ギルドを後にすると、もう一つの変化に気づいた。


 それは窓に映る髪の毛の色。


 黒かった髪の毛は、太陽の光を受けてまばゆく輝く金色となっていた。


 俺たちのアバターはニューロギアからの生体認証を受けて、現実世界のものとなっている。髪の毛の色もそうだ。そのためほかのプレイヤーにも金髪はたくさんいるが、それとは一線を画す神秘的な金。


 さらには身に纏っていた法衣のデザインが変わり、【雷魔法使い】の時よりも精巧に作られているようだった。


 金色の光沢は光の当たり方によっては、まるで雷が舞っているかのように見える。袖口には精緻な雷の文様が縫い込まれ、その一部は光の加減で青白く輝きを放っている。肩から袖にかけては雷雲を模したグラデーションが施されており、動くたびにその美しい模様が揺れ動く。背中には大きな雷のシンボルが描かれ、これも動くたびに光が奏でるように輝く。


 これは目立つ……が、もしかしたら有紗を探すのにはいいことかもしれない。


 金色に染まったプレイヤーがユウトという噂が広まれば、有紗も俺のことを探すのが容易になるかもしれない。


 そんな期待を胸にセントラルシティに転移した――――

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