第4話 ルーキータウン
ルーキータウンに近づくにつれプレイヤーの密度が高くなる。
無理もない。皆が一斉にプレゼントというものを目当てにルーキータウンを目指しているのだから。
俺がルーキータウンに入れたのはインしてから一時間後のことだった。
これでも地を這い、強引にでも人波をかき分けながら入った結果。
まともに待っていたらあと数時間はかかっていただろう。
そう思わせるくらいにプレイヤーの数は多い。
そして街に入った瞬間、強制的にパッシブスキルのウィンドウが表示されると同時にまたも頭に機械音が響く。
『まずは最初のクエスト完了達成おめでとう。早速だが報酬を与える。好きなパッシブスキルを一つ選びなさい』
パッシブスキルだって!? クローズドベータ版では数か月かけてようやく得られたというのに!?
何かの罠か? とも思ったがウィンドウに表示されるパッシブを前に我慢ができるわけがない。
・《HP自動回復》
・《MP自動回復》
・《早熟》
・《守銭奴》
……etc
《HP自動回復》、《MP自動回復》は一時間に10%回復するというもの。《早熟》は魔物を倒したときに得られる経験値が10%up、《守銭奴》はゴールドが10%upだ。
他にもいろいろあるが、俺が選んだのは《鑑定》。
選んだ瞬間、再度機械音が頭を叩く。
『では健闘を祈る。また仮初の姿はここでだ。これからは本来の自分の姿になって楽しんでほしい』
強制的にウィンドウが閉じると、先ほどまでとは別の世界が目の前に広がる。
美男美女しかいなかった世界だったはずだったが一転、目の前にはいい年こいたオッサンや俺のようにオタクと分類される奴らで溢れかえっていたのだ。
「おい! なんでアバターが解けているんだ!」
「メイキングに一時間以上かかったんだぞ!」
しかし、服装はそれぞれのジョブのもの。
だから剣士風の格好をした腹が出たオッサンや商人を連想させるターバンを巻いた女の子姿も散見され、中には【ゴミ拾い】のジョブを選択したと思われるみすぼらしい恰好をした者までも。
ちなみに俺の服装はというと金色の法衣。
あたりを見ても赤や青、緑は見かけても誰もこの色の法衣を纏っている者はいない。ということは、【雷魔法使い】は俺しかいないということ。
だからなのか周囲も俺のことをジロジロと見てくる。
アバターのままにしておいてくれよとも思ったが、すぐにこれは俺にとって好都合ということに気づく。
というのも、有紗を探すといってもアバターを知らなかったからな。
もし有紗がルーキータウンまで辿り着いていればもう素顔のはずだ。
これで探しやすくなったと前向きになったのも束の間、見渡す限りの人に辟易する。
さすがにこの人数の中では探すことは不可能……であれば、やり方を変えよう。
有紗から俺を探すように仕向けるのだ。
幸い俺は目立つ。俺が『魂の監獄』に参加していると分かれば、もしかしたら有紗も俺を探してくれるかもしれない。
そのためにはまず俺がやることは1つ。
迷宮の一層を誰よりも早くクリアすること。
クローズドベータ版の話にはなるが、その階層のボスを最初に倒すと、ボスを倒したパーティとパーティリーダーの名前が、他のプレイヤーたちのオーバーレイ表示されたHPバーとMPバーの隣、つまり視界の中央上部に数秒間表示されるのだ。
ユウトなんてどこにでもいるかもしれない。
しかし、パーティ名を入れれば話は別。幸い俺にはあるパーティ名が思い浮かんでいた。誰もがただの厨二を拗らせたパーティ名と思うかもしれないが、有紗なら分かってくれるはず。
攻略のためにはまず、必要な物を買い揃える必要がある。
道具屋でポーションとマジックポーションを買い、アイテムストレージにしまう。
ちなみにだが、このゲームには重さという概念がある。
装備品とアイテムには重さがあり、筋力よりも多い数値は持てない。
これはキャリーや姫プ、パワーレベリング防止の1つ。上級者が初心者にいい武器を装備させて、必死に頑張っている者たちを嘲笑うかのように抜き去るのを良しとしない運営の策だ。
例えば今買った二つのアイテムを見てみると、
【名前】ポーション
【重さ】1
【効果】HP100回復
【名前】マジックポーション
【重さ】1
【効果】MP100回復
両方とも重さは1。
筋力値33の俺の場合、33個持てると思うかもしれないが、装備品を別としたアイテムストレージは10個まで。
さすがに10個は少ない。ストレージを拡張する何かがあるのでは? という事前予想が噂されていたが実際のところは不明。ただ【荷物持ち】という職業があり、ステータス上昇値が低く、適性もないが、ストレージが1.5倍のジョブがあるので、期待薄かもしれない。
ちなみにだが、服やアクセサリーで装備してもステータスや特殊効果がない物については重さは0で無限に持つことができる。例えばエプロンや寝間着、俺が今着ている金色の法衣など。
目的を果たした俺は店の外へ。
相変わらず、隙間がないほど人でごった返していたが、ここでさきほど獲得した《鑑定》を使用してみる。
自分のステータスをより知るためにも、他のプレイヤーたちの情報も知っておきたい。
本来は他人を勝手に《鑑定》するのはご法度なのだが、それを知る者も少ないだろう。
そう言い聞かせ、まずは俺と色違いの赤い法衣を着た男を鑑定する。
【名 前】ミッチー
【ジョブ】火魔法使い(0/14)
【状 態】良好
【L V】1
【H P】55/55
【M P】60/60
【筋 力】32
【敏 捷】32
【魔 力】37
【器 用】33
【防 御】32
【魔 防】35
【適 性】火魔法G(0/7)
【重 量】0/32
【装 備】-
【アクティブスキル】
・《ファイア》
【パッシブスキル】
・《鑑定》
火魔法使いは皆同じステータス。言えることは間違いなく雷魔法使いの方が強い。
次は剣士風の男だ。
【名 前】ショウ
【ジョブ】剣使い(0/14)
【状 態】良好
【L V】1
【H P】60/60
【M P】55/55
【筋 力】??
【敏 捷】??
【魔 力】32
【器 用】35
【防 御】33
【魔 防】33
【適 性】剣術G(0/7)
【重 量】?
【装 備】鉄の剣
【アクティブスキル】
・《二連切り》
【パッシブスキル】
・《HP自動回復》
ここで注目したいのが【剣使い】ショウの筋力と敏捷、それに重量。
『魂の監獄』では自分よりも勝っているステータスをHPとMPを除いて鑑定することはできない。これは魔物にも適用される。
だからショウという【剣使い】は俺よりも筋力と敏捷が高いと言うことだ。
これで俺の立ち位置がある程度把握できた。
俺は魔法使いの中ではかなり強い部類……もしかしたらレベル1の中では一番強いかもしれない。
しかし前衛を張れるほどでもないということだ。
油断することなくまずは自身の強化から。
そのためにもここより東にあるポーロタウンに向かい、その北にある森、モーブフォレストを目指すことにした。
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