第6話 迷宮

 ――――十日目


「やっと着いた……一番乗りか?」


 セントラルシティに足を踏み入れプレイヤーを探すも見当たらない。道中、目についた魔物だけを倒し、最短でここを目指した結果だ。



【名 前】ユウト

【ジョブ】雷魔法使い(4/14)

【状 態】良好

【L V】5(3up)

【H P】90/90

【M P】125/125

【筋 力】45(9up)

【敏 捷】50(12up)

【魔 力】80(30up)

【器 用】50(12up)

【防 御】45(9up)

【魔 防】60(18up)

【適 性】火魔法G(4/10)・風魔法G(4/10)・水魔法G(4/10)・雷魔法G(4/7)

【重 量】8/45

【装 備】-

【アクティブスキル】

・《ライトニング》

・《ファイア》

・《ウォーター》

・《ウィンド》

【パッシブスキル】

・《鑑定》



 出だしは順調。そう思いながら、NPCが我が物顔で歩く大通りを中心に向かって歩くと、まず目に入るのはセントラルシティを囲うかのようにそびえ立つ壮大な城壁。


 十キロメートル以上は離れているであろうレイクタウンからもそのシルエットが望めるほど。


 視線を下げると、路地は石畳で敷き詰められ、建物を飾る魔法灯が照らす。


 そして何よりも目立つのは街の中心にある転移門。


 この転移門からは一度でも行ったことがある街であれば転移することができ、この世界で最大にしてラスボスが待ち受ける迷宮、ベリグランド迷宮にも転移することができる。ちなみにベリグランド迷宮に転移できるのはこのセントラルシティからだけだ。


 注意が必要なのは、どこに行くにしても使用料100ゴールドが取られてしまうこと。


 それでも時間を買えるのはありがたい。いつでも使えるようにゴールドの確保はしておきたい。


 もうそろそろ装備品も買いたいところだが、手持ちは少ない。


 まぁそれも予定通り、何しろここに来るまではチュートリアルのようなもの。レベルも5まではあっという間に上がるのもクローズドベータ版と変わらない。


『魂の監獄』の知識はなくともVRMMOを触ったことがあれば、時間こそかかるかもしれないが誰でも来られる。


 だからこそ、先ほどのアナウンスには驚いた。


 もう千人のプレイヤーが死んだという。


 もしかしたら南西に位置するルーキータウンから東に向かい、サウスタウンを越えてさらに東に行ったのか、もしくはルーキータウンから北へ向かい、ウエストタウンをさらに北上したかしか考えられない。


 いずれにせよ無事に有紗がここに辿り着いてくれることを願うのみ。


 今は一刻も早くベリグランド迷宮一層をクリアすることを目指すが、セントラルシティはベリグランド最大の都市で収容人数は十万人を軽く超える。


 南門から転移門がある中心部まで一時間弱かかってしまう。そのためなのかこの街の東西南北には中心に繋がる小さい転移門が設けられている。


 本当は俺も利用したかったが、今日の宿代すらないから仕方がない。


 クローズドベータ版と違う所はないかとキョロキョロしながら中心を目指す。


 が、特に変わったこともないようで転移門がある中央広場が見えてきた。


 開けた中央広場の中心に転移門が存在するが、囲むように様々な店が立ち並ぶ。


 迷うことなく俺は冒険者ギルドの扉を開く。目的はクエストの受注。


 実は今まで立ち寄ったルーキータウン、ポーロタウン、レイクタウンにもあったのだがギルドには仲間を求めるプレイヤーで溢れていると踏んだため、無視して入らなかったのだ。


 誰も並んでいないNPCの受付嬢の前に立ち、早速クエストを受注する。


・ベリグランド迷宮一層でゴブリン十体倒す

・ベリグランド迷宮一層でゴブリンメイジ十体倒す

・ベリグランド迷宮一層に三時間滞在する


 受けられるクエストは三つまでですべて報酬は200ゴールドだった。クリアできそうなものを選ぶ。


 そして冒険者ギルドにはクエストを受注する以外にも、あと二つの役割がある。


 一つはパーティの作成と管理。


『魂の監獄』ではパーティを作成するのも、メンバーを増やすのも冒険者ギルドを通さないとできない。


 他のプレイヤーがいない今のうちにパーティを作り、パーティ名も決める。


 もう一つはジョブチェンジだ。


 特に基本職へのジョブチェンジは専用アイテムを必要としない。


 俺が予定通り【馬飼い】になっていたら、ルーキータウンの冒険者ギルドで【剣使い】になろうとしていたのだ。


 今となっては【雷魔法使い】でよかったとすら思いながら、中央広場へ向かう。


 中央広場に着くと、早速転移門の前に立ち、


「転移、ベリグランド迷宮一層」


 と、叫ぶ。


 すると、転移門から強い光が放たれ、その中心にひとつの穴が開いた。不思議なエネルギーが門から溢れ、周囲の景色を歪ませる。


 躊躇うことなく転移門の中へと歩みを進めると、身体が強烈な引力に引かれるような感覚が押し寄せた。


 が、それもすぐに収まり、次に感じたのは空中を漂う感覚で、重力が失われたかのように感じられた。


 そして、その感覚が次第に収まっていくと、視界もそれに合わせて安定していく。



 ピントが合ったときにはもう薄暗い迷宮の中だった。


 古びた石畳と静寂、そしてどこからともなく吹く冷たい風が俺の心を不安にさせる。


 クローズドベータ版で体験している俺でも心細く感じるのだ。他のプレイヤーも不安になるだろう。


 足元を確認しながらゆっくり歩くと、遠くにぼんやりと緑色の影が見えた。警戒しながら歩くと、影がこちらに迫ってくる。


 徐々に明らかになるシルエットに対し、右手を前に掲げ神経を研ぎ澄ます。次第に足音が大きくなり、しっかりと視認できたのは数十メートル先にことだった。


 目に映るのは身長が低く、ひょろい体つきをした生物。頭には尖った耳、顔には鋭い歯を持つ口が広がっている。右手には刃こぼれした剣を持ち、緑色の皮膚は汚れていた。


 ゴブリンだ。


 ベリグランドに降り立ち初めて目にする人型の魔物。


 なんとなくのステータスは覚えているが、まずは《鑑定》。



【名 前】ゴブリン

【状 態】良好

【H P】150/150

【M P】0/0

【筋 力】??

【敏 捷】30

【魔 力】0

【器 用】15

【防 御】40

【魔 防】20

【アクティブスキル】

・-

【パッシブスキル】

・-



 クローズドベータ版と変わらぬステータスに胸をなでおろす。


 筋力は俺よりも高いらしいが、確か60くらいだった気がする。


 まずは近づかれる前に先制攻撃。


「《ファイア》!」


 薄暗い迷宮を照らしながら火の塊をゴブリンに向かって発射する。


『ギャギャギャ!?』


 着弾した瞬間、悲鳴のようなものを漏らすが、ひるまず突進してくるゴブリンのHPバーは半分を切っていた。


 再度鑑定するとHPの残りは55。得物を持っていれば接近戦を挑んでもいいのだが、ここは確実にもう一度ファイアを放つと、ゴブリンはガラスが割れるようなエフェクトを残し、俺の経験値となる。


 よし! これならいける。あとはゴブリンメイジ相手に走りながら魔法を撃つ感覚を取り戻すだけ。


 他のプレイヤーがここに来るまでの間、全力で狩りをしレベル上げに勤しむことを誓い、さらに奥へ歩き始めた――――

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