第2話 キャラメイキング

『魂の監獄』とはニューロギアでプレイするVRMMOだ。


 その広大なオープンワールドには、山や川、洞窟や湖が広がり、魔物が忍び寄る。


 さらには、その広大なオープンワールドの地下には百層にもなる迷宮が存在し、それぞれの階層にはボスが待ち構え、倒すとレアな報酬が手に入る。


 またこのゲームには様々なジョブがある。


 おなじみの【剣使い】や各種【魔法使い】はもちろん、【コソ泥】や【ギャンブラー】、さらには【馬飼い】や【畑いじり】。レアなところでは【ゴミ拾い】まで。


 【ゴミ拾い】? と首をかしげるプレイヤーもいるかもしれないが、その中には意外な宝が眠っていることもある。


 ただその確率があまりにも低いこと、またレベルが上がってもステータスがほぼ上がらないことから鑑みるに、【ゴミ拾い】を選ぶ者はまれだろう。


 ファーマー素材を集める人の行きつく先が【ゴミ拾い】なのかもしれない。


 そのジョブ専用のサブストーリーがあるのも魅力の一つ。


 例えば俺が目指す二次職の【騎士】になると騎士団に入ることができ、サブストーリーはもちろん、勤務時間に合わせて自動的にゴールドを得られる。


 二次職ということは当然クラスチェンジがある。ちなみにクローズドベータ版では基本職までしか実装されていなかったが、二次職のステータスやクラスチェンジ条件は見ることはできた。


 これだけのボリュームのフルダイブ式VRMMOは過去になかった。


 そのため『魂の監獄』は発売前にも拘わらず大きな話題となり、芸能人や対戦格闘ゲームのプロ、はたまたFPSの元プロで現在はストリーマー活動をしている者たちが参加を表明して話題を博した。


 そんな中、なぜ俺がクローズドベータ版の参加権を得られたかというと、配信活動を始める前、中学時代に前身となるゲームをサービス終了までやっていたからだろう。


 運営からは友人関係が希薄であるか、またはコミュニケーション障害があると見られていたのかもしれない。


 実際その通りで、勉強に行き詰まったり、嫌なこと、悩んだりするとファームをしながら考えていた。


 クローズドベータ版の情報を漏らしたくはないが、ユーザーの意見を取り入れたい。そんな思いから俺をクローズドベータ版に招いたのかもしれない。


 俺は勝手に運営の思いを酌み、配信活動を始めてもクローズドベータ版を配信に載せないことはもちろん、参加していたことも口外してない。


 だからこそこのゲームのクリアに近いのは俺、引いては有紗を助けられる確率が高いのも俺だと思っているのだ。


 が、それはログインできてこその話。


 参加資格の締め切りは三十分以内って言っていたよな。


 初回起動には時間がかかる……もしかしたらこのままログインできずに参加できないという最悪なことも。


 永遠と思われる時間を過ごし、ようやく数字だらけの画面からキャラメイキングに切り替わる。


 しかし、左上には制限時間と思われるカウンターが刻一刻と減っていく。


 残り一分!


 大丈夫、ジョブさえしっかり選べればあとはデフォルトでOKだ。


 素早く名前を入力。


 有紗に気づいてもらえるように本名で参加しようと思ったが、漢字を探している時間がないのでユウトに。


 次にアバターだが、俺の生体情報を読み取ったニューロギアに任せて、すぐにジョブ選択へ。


 どのジョブに就くのかは決めている。


 先ほども言ったようにまずは二次職の【騎士】を目指す。


 そのために必要な適性を上げられるジョブを選択しなければならない。


 クローズドベータ版では確か一番下にあった気が。


 しかし、ここでこのゲームの長所であるところが短所となる。


 ジョブが多すぎてなかなか一番下までいかない。


 やばい……残り十秒を切った。


 まだ見えない。


 ………………五秒前……………四秒…………三秒………二……あった!


 場所は下から三番目!


 急いでカーソルを【馬飼い】に合わせる。


 間に合った……と手を下ろしたその瞬間、脱力した手がスクロールバーに触れてしまう。


 それはヤバい! と思い、再度【馬飼い】に合わせようとするがタイムオーバー。


 カーソルが指した先は、パチスロのようにリールが高速で回るランダムジョブ。


 まじか……どう考えても当たりジョブよりも外れジョブの方が多い。


【馬飼い】でなくてもいいからせめて【剣使い】【槍使い】【斧使い】のどれかにしてくれ……。


 リールが止まらぬ間にゲーム内への転移がゆっくりと始まり、視界が次第に暗くなる。


 せめてリールが止まるところを見届けさせてくれ!


 が、願いは叶わず意識が遠のく。


 気がついたときには『魂の監獄デスゲーム』の舞台でもある、ベリグランドの大地に立っていた――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る