第17話 前衛二人

 パーティを組んでから五日。アリサはシステムアシストに慣れ、身体を自由に動かすこともできるようになった。


「アリサ、このアイテムを使ってみてくれ」


 セントラルシティの郊外でアリサのアイテムストレージにアイテムを送る。


「ええ、分かったわ」


 アイテムを使うのも手慣れたもの。右手の人差し指と中指を揃え手首のスナップを利かせて真下に振り、よどみない動作でアイテムを使う。


「あれ? 剣術の適性が上がるらしいんだけど使っていいの?」


 ゲームにあまり詳しくないであろうアリサでもこのアイテムがレアというのは分かるらしい。


「もちろん、アリサに使ってもらうためにとっておいたんだ」


 渡したのは【求道者の書】。これでアリサの剣術適性がG→Fになった。それによりシステムアシストの補正が高くなる。それを確かめようとアリサは【鉄の剣】を片手に素振りを始める。


 アリサの動きは一分の隙もなく、剣を振るう度に空気が切り裂かれる音が響く。その動きはまるで舞踊のように優雅でありながら、力強さも秘めている。筋肉の一つ一つが調和し、精密なコントロールのもとに剣を操っている。


「え? なに? 私のフォームおかしい?」


 日差しを浴びて輝き、風に揺れて流れるように動くキャラメルブラウンの髪を靡かせ聞いてくるアリサ。見惚れていたなんて口が裂けても言えない。


「まぁ……まぁじゃないかな」


 適性が上がったにも拘わらず、違和感なく素振りができるまでになったか。もうそろそろ……だな。


「アリサ、明日から迷宮に潜ろうと思う。まずは一層から。ゆっくりでいいから慣れるぞ」


「はい! 頑張ります!」


 日が傾くまで郊外の魔物を狩りながら訓練をしていた。



 街に戻りいつものように歩いて宿まで向かう。転移門を使えばすぐなのだが、俺は二人で歩きながら語り合う時間が好きなのだ。


 中学一年生からほとんど会話を交わさなかったからな。空白の六年間を埋めるかのようにアリサとの会話を楽しむ。


 途中、適当なレストランに入り、食事を楽しんでから宿で休む。



 ――――翌日


 冒険者ギルドに寄り、久しぶりにクエストを受けに行くと、見慣れないアバターがちらほらとあった。


《鑑定》しなくとも分かる。二次職に就いたプレイヤーたちだ。彼らの表情は自信に満ち、その力を誇示するように大きな声を上げる者もいた。


 迷宮に潜らなくなって二週間弱、だいぶ出遅れてしまったかもしれないが、今日から俺たちも本格的に潜る。



 まずはアリサにゴブリンと戦ってもらう。


 初めて人型の魔物を前に̪怖がるプレイヤーもいる中、アリサの戦闘は堂々としたものだった。


 剣の振り下ろしは滑らかで、足捌きも完璧。しなやかさにも力強さを感じるその舞いは、俺だけでなく周囲のプレイヤーの目も惹くほどだ。


 次はゴブリンメイジ。


 アリサは、最初こそ戸惑ったものの、すぐにコツを掴んだ。


 これならもっと奥へ潜れる。それにアリサの選んでいたパッシブスキルも迷宮に相性がいい。



【名 前】アリサ

【ジョブ】剣使い(5/14)

【状 態】良好

【L V】6

【H P】76/110

【M P】80/80

【筋 力】54(+20)

【敏 捷】60

【魔 力】42

【器 用】60

【防 御】48(+10)

【魔 防】48(+5)

【適 性】剣術F(5/7)

【重 量】53/54

【装 備】鉄の剣

【装 備】旅人の法衣

【アクティブスキル】

・《二連切り》

【パッシブスキル】

・《索敵》



 俺も《鑑定》とどちらを取るか最後まで迷った《索敵》。アリサになぜこのパッシブを選んだのか聞いたが、教えてくれることはなかった。言い寄ってくるプレイヤーが煩わしかったから選んだのではないかと俺は思っている。


 あともう一つ。アリサが装備している【旅人の法衣】。あれは俺が装備していたものだ。


 ゴールドに困っていたわけではない。まだまだ俺には余裕がある。しかし、どうしても俺には装備できない理由があった。


 それがこれ。



【名 前】ユウト

【ジョブ】雷鳴士(1/20)

【状 態】良好

【L V】12(1up)

【H P】168/168

【M P】275/275

【筋 力】75 (6up)(+20)

【敏 捷】88 (7up)

【魔 力】172 (16up)

【器 用】88 (7up)

【防 御】75 (6up)

【魔 防】109 (8up)

【適 性】火魔法F(1/12)・風魔法F(1/12)・水魔法F(1/12)・雷魔法E(1/10)

【重 量】60/75

【装 備】鉄の剣

【アクティブスキル】

・《ライトニング》

・《ファイア》

・《ウィンド》

・《ウォーター》

・《ライトニングウォール》

【パッシブスキル】

・《鑑定》

・《雷の加護》(1/20)



 そう、俺が装備しているのは【鉄の剣】。


 この【鉄の剣】を装備しているからこそ、俺は【旅人の法衣】が装備できなくなったのだ。



【名 称】鉄の剣

【攻撃力】20

【魔 力】0

【重 さ】25



【鉄の剣】の重さは25。アイテムストレージいっぱいにポーションやマジックポーションを入れているから、普通であれば重量は35/75となり、重さ25の【旅人の法衣】が装備できる……が、それは剣に適性があるジョブだけの話。


【雷鳴士】に剣の適性はない。しかし、適性がないからといって装備できないということはない。適性のない装備品の倍の重量で装備できるようになるのだ。


 ここで勘違いしてほしくないのが、プレイヤーに適性があってもジョブに適性がなければ重量は倍になる。


 例えばアリサが今から魔法使い系のジョブにチェンジした場合、アリサ自身には剣術の適性はあるが、魔法使い系のジョブには剣術適性がないから、【鉄の剣】の重量は倍となる。


 アリサにシステムアシストに慣れてもらうためには、剣を使って説明するのが最適だと考えた俺は、【木の杖】と【旅人の法衣】を諦めたのだ。


 しかし、この判断は間違ってないと思う。なぜなら【雷魔法使い】、【雷鳴士】の魔力上昇値は高く、【木の杖】を装備して魔法を放つと雑魚敵にはオーバーキルとなってしまうのだ。


 ボス戦でもせっかく《ライトニング》で感電させてもCTが上がるのを待つだけというのは勿体ないからな。


 それにアリサ一人だけを危険な前衛に置いておくというのはできない。


「アリサ、今は魔物が弱いから個々の力で勝てるが、必ずそうならない日がくる。だから今のうちに連携を強化しようと思う。次からは複数体の魔物と戦うことになるからそのつもりで」


 まずは他のパーティの戦いを見ながら連携強化をしようとさらに奥へ向かった。


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