第20話 鳴子美津の場合3

 占いか。何度か行ったことはあるけれど、何を言われたか正直覚えていない。ただいい感じのことは言われて喜んだのは覚えている。そのくらい。玄関では干して畳んだ黒い傘が存在感を放っている。ただ返しに行くのは気が引けた。占いもしてもらおうか。もしかして、そういう勧誘をしているのかと、ちょっと不安になる。


 「透明 占い師」で検索をかけた。引っかかってきたページはたぶん、あの占い師のものじゃなくて。占いの口コミサイトやマップにも評価が出てこない。怪しい。怪しすぎる。もらった名刺のHPを見てみると、予約サイトが直接出てくる。30分5000円。現金のみ、の文字。何占いかすら書いてない。これで、どうやって人がくるのだろうか。


 散々悩んで、傘をそのまま返しに行くのも、持っておくのも気が引けるので結局私は予約をすることにした。せっかくなので、結婚できるのかを見てもらおう。そう思った。私は彼氏はいたことがある。二度ほど。最初の彼氏はお互い好きになって、付き合った。初めてのお互いが特別になる感覚が嬉しくて、浮かれて、全部合わせて、どうしても合わないところでケンカして、疲弊して、別れた。ものすごく楽しくて、ものすごく疲れた。けれど、今考えてみると、お互い同じエネルギーで好きになるなんて、奇跡のようなものだったのだと、思う。それは、初めてだからできたことなのかもしれないが。その後、二度ほど軽い失恋をして、次に付き合った人は、相手が自分のことをすごく好きでいてくれた。優しい人だったと思う。私も、いつか彼のことがもっと好きになると思っていたけれど、だんだんと彼と会う予定が会社の予定と同じ熱量になってしまい、別れた。なんだかんだ一人で家にいる方が落ちついた。でも、それでも羨ましくあるのだ。美琴の家のような、誰かと生活を共にする、誰かと共に生きる、その生活が。


 婚活を諦めたくせに何を、と思うが、それでも結婚したい、という願望は間違いなく自分の中にあった。最近は恋すらしなくなった私だが、いつかまたあの甘い感情に浸されて、誰かと交わりたい。その願望はある。美琴に言わせると、「結婚と恋愛は違うよ」とのことだが。


 予約サイトを見る。ほとんど×印だが、見計らったように今週の日曜日の10時だけ空いていた。〇印を押すと、名前と生年月日を入れるページに移った。鳴子美津。名前を入れて、生年月日を入れる。誕生日を迎えて3日経っていた。鳴子美津、30歳、なんだ。と思う。学生の時、望んでいた30歳はこれだったろうか、と思う。小学校の時、中学校の時、高校の時、私はどんな大人になることを望んでいたろうか。思い出せない。ただ、こんな不安に襲われるような、結婚できるかどうかを占いにすがるような大人になりたかったと望んだことはない。それははっきりわかった。





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