第4話

――高野京たかのけい――

「おぉ...!!」


待ちに待った「ステータスオープン」。

誰しもが声高らかに唱える文言。

そして唱えると目の前に現れたホログラムのようなステータスプレート。


このステータスプレートは自分以外は見ることはできず、

特殊なスキルを所持していない限りは他人のステータスを盗み見ることはできないのだ。


そしてそこに映っていたのは


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━


高野京 Lv,1

MP: 1

筋力:1

防力:1

敏捷:1

魔力:1

精神力:20


スキル:

固有アビリティ:


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━


「...は?....え」


一瞬にしてすべてが消えてしまった。

もしくは、今までの努力が崩れ去ってしまったような感覚に陥った。


足に力が入らず腰を抜かし地面に尻餅をつく。

絶望はしている。

なのになぜか涙が出ることはなかった。


「...20」


精神力だけがなぜか平均より高いステータスに助けられたのか心がすぐに

折れることはなかった。

すぐにDフォンを使い「冒険者心得:ステータス」に記載されている一般的な数値やスキルを見るが、全てが10を超えておりスキルは1個はあるはずなのだ。


固有アビリティは特殊な体験、経験を積むことで得られるものだ。

なので、初めからある者は必ず冒険者として大成する大物ばかり。


それがあるのを少し夢見ていた京だが、スキルが一つもないだなんてこと思いもよらなかったのだ。

何せ、事前に調べていた情報では前例のないことだからだ。


頭が回らない。

何も考えれない。

自分が見ていた世界が崩れていくように見えた。


そんな中、ここはダンジョン内、甘い世界なんかじゃないんだと思い知らされることになる。


ササッ

「.....グルルルルルル」

「...グレーウルフ」


目の前に現れたのはウルフ系の中で最弱の「グレーウルフ」。

少し戻ればゲートがあるが敏捷1の京が逃げ切れるかはわからなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ、」


息が苦しい。

グレーウルフが涎を垂らし、鋭く光った牙を見せつけながら一歩一歩こちらを観察しながら近づいてくる。


「グルルルルルル!!」

カチャカチャカチャ


手が震えてアイアンソードが上手く抜けない。

最弱 Vs 最弱

だが、人間最弱が魔物に勝てる要素は見当たらず、

勝てないことを本能で理解した京。


「ワオーン!!」

「...う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


グレーウルフに背を向け情けない声を出しながらダンジョンゲートに向けて全力で走る。


(なんで....なんで!!)


ひたすら走る。

ただそれだけしかできなかった京は、ダンジョンゲート一歩手前で

グレーウルフが足に体当たりをしてきたことによりバランスが取れず地面に倒れてしまう。


「いっ.....」


痛みのせいで体が言うことを聞かずグレーウルフの接近を許してしまう。

飛びついてくるグレーウルフに抵抗すべく、右手で追い払おうとするが

ついには鋭い牙で右腕を嚙みつかれてしまう。


「ぁぁああああ!!」


(右腕が焼けるように熱く痛い!!!)


昨日まで一般人だった京は当然痛みに慣れているわけもなく。

極度の痛みで視界が薄れていき、このままだと死んでしまうと思いつつも

自分の意志とは反対に、意識を落とす。


キンッ!

「はぁぁ!!」

「キャウン....」


意識を落とす直前に聞こえた声は....誰の声だったんだろう。




――???――


私は友達の女の子が冒険者デビューをしたと聞き、付き添いとしてG級ダンジョンゲートへと来ていた。

そろそろ帰ろうとゲートに戻っていく道のりで緊急性のある悲鳴が聞こえたので

友達に断りを入れ全力でゲートに向けて疾走するとゲート前で倒れている男の子がいた。

そして今にもグレーウルフが少年の首に噛みつこうとしていたのだ。

スキルを使うまでもなく簡単に倒せる私は少しでも注意を引くために

声を上げグレーウルフに斬りかかる。


「はぁぁ!!」

「キャウン....」


首を斬り落とすとグレーウルフは黒い霧になり消えていった。

ドロップ品には見向きもせず少年の右腕にポーションを振りかけ応急処置をする。

そして追いついてきた友達と共にゲートから出て救急車を呼び運ばせる。


「ねぇ、あの子大丈夫かな...」

「大丈夫、応急処置はしたから」

「そう、---が言うなら安心ね!」

「なんで」

「だってB級冒険者じゃん!」



京がこの少女にお礼を言えるようになるのは、まだ先のお話である。

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