第9話
満足していた。
冒険者としてゲート内の魔物を倒し探索することに。
だからこそ油断していたんだ。
弱者は強者から搾取されるだけの敗者なのだということを。
「あれ?荷物持ちじゃん。こんなとこでなにしてんだ?」
今一度、弱者である京は、強者から奪われる。
――
「!?....渡部」
「は?今呼び捨てにしたか?」
過去の僕とは違い渡部の全力疾走が見えていた。
が、見える=反応できるというわけではないのだ。
「何調子乗ってんだよッ!」
「ガハッッ!!!」
渡部の膝が鳩尾に入り、全身に力が入らなくなる。
そのまま地面に倒れるかと思ったが、渡部が僕の髪を掴み上げ地面に倒れることを許さない。
「荷物持ちのお前が一人でこんなとこでなにしてんだ?」
「ぐぅぅ」
渡部の後ろからは渡部のパーティーメンバーと思われる2人組の男が近づいてくる。
「渡部さんなにしてんすか~?」
「あ~お前らには会わしたことなかったな」
「うっす」
「一年間G級の荷物持ち、うわさは知ってるだろ?」
「え!?こいつがそうなんすか!確かになんとも弱そうなガキっすね~」
一人は軽薄そうで少しチャラい男、もう一人は無口なのか僕を見るだけで喋ろうとはしないが、鍛え上げられている筋肉が目立つ。渡部からは昔、全員が20代前半の3人組で探索していると聞いたことがある。
そして軽薄そうな男は、僕が身に着けているスライムの指輪に注目する。
「え!渡部さんこいつスライムの指輪着けてますよ!それに地面にはゴブリンの魔石と短剣も落ちてます!」
「あぁ?お前、今日は誰かに連れられてきたのか?」
「......」
答えない僕を問答無用で殴りつけてくる。
口の中が切れたのか血の味がする。
「さっさと答えろよ殺すぞ」
「.....僕が、倒し、たんだ」
素直に答えたが渡部からすればそんなことはありえないのでドッと笑いが生まれる。
「あぁ~初めてお前で笑ったわ。んなわけねぇーだろお前は荷物持ちなんだからよ」
渡部が髪から手を離し、地面に倒れる前に顔を蹴り上げてくる。
「ガッ!」
地面に伏せ、意識が朦朧とする中、カバンに入った魔石やスライムゼリー、そしてスライムの指輪とゴブリンからドロップした短剣を渡部達に奪われる。
心にわずかな火が灯る。
「か、返せ、よ」
「あ?なんか言ったか?」
少しでも渡部に近づこうと、奪い返そうと手を伸ばすが渡部には届かない。
腕にも力が入らなくなってきており、地面に落ちる。
それでも怒りのあまり酸が指先から溢れ出し始め、初めての感情が僕の中で現れる。
(殺して...やる)
渡部は微量ながら京から放たれる殺意を感じ取り、いつもの痛みを教える蹴りではなく意識を刈り取る蹴りを放ち京を吹き飛ばす。
「......」
「どしたんすか渡部さん、そんな焦ったような顔して」
「チッ、行くぞ」
離れたところで倒れている京を一瞥し、渡部達は帰路へ着く。
どれぐらい倒れていたかは分からないが、周囲に魔物がいなかったおかげか魔物に殺されることはなかった。
「...痛ッ」
体はボロボロで胸当てに関しては凹んでいる。
最後の蹴りで胸当てがなければ死んでいただろう。
今までの蹴りの威力ではないことがよくわかる。
多少戦えるようになって忘れていたのだ。
弱者は強者の前では無力なのだということを。
そして自分は弱者も弱者だから、獲得した装備も奪われる。
「強くならなくちゃ....何も奪われないために」
スキルを使うのを躊躇している場合ではないのだ。
「敵は」
相手は容赦してこない。ならばこちらも一滴の情けもかける必要がない。
ならば、自分の前に立ちはだかる敵はどうするか。
そんなのは決まっている。
「殺す」
・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━
どうも、
「努力の形」歩みを止めるのは俺次第をお読みいただきありがとうございます。
良ければ星の評価とコメントを頂ければ、励みになりますので
気軽によろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます