第23話
――
あれ。
なんで僕、こんなに必死になってまで冒険者してるんだろう。
テレビに映る冒険者を見て...だっけ。
「京、――ちゃんがこんな理不尽な世界絶対変えてやるからな」
あれ。
この声聞き覚えがあるけど、誰の声だっけ。
なんでこの声を思い出して懐かしいなんて思ってるんだろ。
それに、何だか胸が苦しいな。
「いやぁぁ!!あなた行かないでー!!」
「紗枝、京と真衣を頼んだぞ!」
「いやぁぁああ!!!」
お、お母さ――
「少年、目が覚めたか?」
「...ここは」
何故か目の前にはデュラハンが居た。
呼んだ記憶は無く、目の前にいる理由が分からない。
ただ、それ以上に分からないことがある。
「なんで僕、泣いてるんだろ」
「ふっ、悪い夢でも見ていたんじゃないか?」
夢は見ていた気がする。
でも、内容は思い出せない。
「夢の話は後だ。少年、私は貴様に問いたいことがある。この先どうするつもりだ?先程少年に襲ってきた女は私が殺したが、少年が死にかけるたびに私が助けるわけでもない。今回はたまたまだ」
「.....」
「冒険者をやめるだけですべてが解決するぞ?弱者と呼ばれることも無く死に瀕することも少なくなるだろう。全て今、ここで決めろ」
グッとデュラハンの圧、そして存在感が高まり息が苦しくなる。
そして殺されかけたことがフラッシュバックする。
思い出すだけで、吐いてしまいそうだ。
心が折れてしまいそうだ。
いっそのこと冒険者なんてやめて一般企業に就職っていう選択肢が脳内をよぎる。
だけど、ここで諦めるのかと。
せっかく強くなれるチャンスが来たというのに諦めるのかと、心の中にいる僕が言っているような気がした。
「少年、貴様はどうしようもなく弱く惨めでちっぽけな存在だ。そんな貴様が何を望む」
何を望む...か。
そんなものは、たった一つだ。
「この世界の理不尽さに負けない力が欲しい」
こんなところで冒険者をやめてたまるか。
息が苦しくても顔を上げデュラハンを力強く見つめる。
「ふっ、口だけは達者な弱者だな。気に入った。合格だ」
圧が消え、デュラハンの雰囲気が子を見る母のような優しい雰囲気へと変わる。
「名を聞いておこう」
「高野京」
「京か」
俺に手を差し伸べ立ち上がらせた後、デュラハンは片膝をつく。
「私は、あなたを主と認め、あなたの剣となりと盾となる者。そして契約に従い、真の名を明かし主に付いて行こう」
片膝をついたままデュラハンは腰にぶら下げていた剣を抜き、僕に渡してくる。
「真の名はクリス」
「クリス......!?」
真の名と呼ばれるものを呼ぶと弱弱しく不安定なひもで結ばれたような感覚から一気に力強く安定したもので結ばれ、リンクが強まる。
いつも以上に感覚が研ぎ澄まされ、誰にも負けることは無いんじゃないかと錯覚してしまいそうになる程の力が流れ込んでくる。
まだまだ、流れ込んでくるかと思ったが、逆流するように力はデュラハンへと帰っていく。
「私と契約したことで京様へと力が流れていきましたが、レベルが足りないので少ししか力は使えません。レベルを上げることで私の力を存分に使えるようになることでしょう」
いきなり礼儀正しくなったデュラハンにぎょっとし、変な感じがする。
「デュラハン、その...前の口調に戻してくれないか?」
「....戻そう。呼び方も京でいいな?」
「うん。そっちの方が話しやすい」
デュラハンが立ち上がりこれからどうしようかと考えようとしたところでデュラハンがいきなり爆弾を投下してくる。
「言い忘れていたが、契約したことで私は京から100M以内でしか行動できなくなった。今後ともよろしく頼む」
「.....は?」
その後色々と問題点が見つかり考えることが増えたように感じた。
その日から高野家に金髪美人が新しい住人として住むことになったのだった。
「努力の形」歩みを止めるのは俺次第 璃々宮志郎 @ririmiyashirou
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