第13話

――高野京たかのけい――


ゲートから外へ出て換金所に向かう。

僕にゴブリンたちを擦り付けた人らの姿はなく一悶着起きるかと思ったがそんなことは無かった。


「換金お願いします」

「はい。かしこまりました.....!?」


冒険者カードを見せ、換金してもらうためにゴブリンの魔石を計11個とゴブリンの短剣を提出する。

すると、換金所のお兄さんが心底驚いた顔をしていた。

だが、次第に疑わしい目を向けてくる。


(まぁ、一年間換金所とは無縁の僕がG級のゴブリンだったとしても、この量の魔石を一人で持ってくるのは怪しいよな)


「高野様、失礼を承知でお聞きしたいことがあるのですが...これは高野様が討伐したゴブリンの魔石でしょうか」

「はい、そうです」

「....そうですか。失礼いたしました。合計で3200円になります」

「ありがとうございます」


最後まで疑わしい目を向けてきてはいたが、結局のところ証明のしようがないので受付のお兄さんも僕を詰めることができないのだ。

ただ少し残念なのは、優しくて良いお兄さんと思っていただけに今回は疑われて残念だと思った。


現金を受け取り換金所を後にする。

自分で手にした物で現金を受け取る嬉しさはあるが少しめんどくさい。

Dフォンのランクを上げると現金受け取りではなく電子マネーとして登録できる機能が得られるのでそれを目指したい。


その電子マネーはいつでも自分の口座に移すこともできるので便利なのだ。

ちなみにDフォンのランクは冒険者ランクと同じでG~Sランクまであり、

そしてDフォンのランクを上げるのに特に必要な冒険者ランク制限はなく、お金さえあればダンジョン協会で希望ランクのDフォンと交換してもらえる。


「F級の電子マネー機能付きDフォンは.....2万か」


G級ダンジョンで頑張れば稼げる金額になっていた。

なので2万までは得たお金は貯めることにした。


その日も寄り道せずに帰宅していつも通り装備の点検はしてからベッドに入る。

何故か最近、真衣が「お兄ちゃん!久しぶりに一緒にお風呂入る?」と言ってくる。

お母さんは止めることも無くニコニコしており、僕はしっかりと断ってから一人で入る。

小さい頃はよく入ってはいたが、真衣は高校一年生で僕の一個下だ。

流石にまずい気がする。


そんなことを考えながら眠りにつき、次に日の朝を迎える。


「明日から5月か」


学校への登校は2カ月ぐらいなら休んでいたとしてもそのあと登校していれば大丈夫なはず。

そして学校から親への連絡はいっていない。

先生たちも僕の学校での惨状をお母さんに知られたくないのだろう。


こちらからすればありがたい話なのでなにも文句はない。

ゴミだなとは思うが。


死に急ぐわけではないがあと一か月と3週間程度でDランクまでは上げておきたいと僕は考えていた。


そして今日、ボスに挑戦するつもりだ。


しっかりとボスのことも知識として頭に入っているので無策で行くわけではなく、

スキルを使えば勝てると踏んでいるからこそ、今日挑む。


いつも通りバスに乗り込みゲートへと向かう。


1階層の魔物は無視して通れたが2階層ではゴブリンとの接敵率が高く3度程戦闘を行った。

ステータスも上がっているので急所に一撃入れるだけで仕留めることができた。


特に疲れることも無く3階層への階段までたどり着き、降りていくとそこには巨大な扉が立っていた。


「これがダンジョンボスの扉....」


扉の装飾は少ないが真っ黒な門のような大きさの扉に禍々しさが宿っていた。

朝一の挑戦者は居ないのか、誰もボスの扉の前には居なかった


扉に手を当てると自動で扉が開く。

部屋の中は中々な広さをしていて、体育館3個分の広さをしていた。

部屋の中に一歩足を踏み入れると、壁際にあるたいまつに火が灯る。


そしてその部屋の真ん中には情報通りのボスが居た。


「ゴブリンライダー、情報通りだな。お前を倒してF級に上がるッ!!」


ゴブリンライダーは、ゴブリンがグレーウルフに乗っており、中々素早いので攻撃を当てるのが難しい魔物となっている。


パーティーが居れば、盾役が攻撃を受け、その瞬間にゴブリンライダーを囲みじりじりと詰めていくのがセオリーだ。


だが、僕はソロでの挑戦。

いっしゅんの過ちが命取りになる。


短剣を構え、ラビットフットでゴブリンライダーまで駆けようと地を蹴ろうとした時、脳内に聞き覚えのない女性の声が聞こえた。


『スキル無しの冒険者でありながら強さへの渇望を持つ者の入場を確認』

『ビィービィー、不正を確認』

『スキルの有無に疑いあり』

『kfasjnfgosajghsaidughasigjnfsdaoigusdhvconadgifoushgiuagbnksajdgnkdgjgh』

『借り物のスキル所持者を確認』

『エクストラボス入室を許可します』

『尚、エクストラボスを打ち倒すことが出来ればスキルによるスキル取得ではなく

本当の新たなスキルを授けます』

『・・・イレギュラー、健闘を祈ります』



「は?何が起こって..!?」


黒い霧が部屋の真ん中で渦巻く。

その中から現れたのは黒の甲冑に黒の鎧を身に纏ったゴブリンが立っていた。

そしてなぜか仲間であるはずのゴブリンライダーの首を斬り落とされる。

そしてグレーウルフは、蹴りで吹き飛ばされ、2体の魔物を一瞬にして消滅させた。


背丈はゴブリンよりも高くスラッとしており、短剣ではなく漆黒のロングソードを構えていた。

そしてゴブリンよりも知性があるのかこちらに対してお辞儀をしてくる。


「....やばい、何かがやばい」


全身から湧き出る汗が止まらず、目の前にいる漆黒のゴブリンから目が離せないでいた。


「...イレギュラー?不正?なんのことだかさっぱり――」


表で出回っていないだけなのか、それともエクストラボスに出会った冒険者は死――


思考を巡らせていた瞬間、目の前のボスが消えた。

次の瞬間、視点はぐるぐると回り続け壁に激突する。


「カハッ!!」


右の脇腹がズキズキと痛む。

僕の右に移動したのには気付けたがラビットフットも使っていなかったため反応が遅れ、拳を入れられた。


痛みが治まらない。

もしかすれば骨にひびぐらいは入っているんじゃないだろうか。


そして漆黒のゴブリンに向き直るとまた消えた。


「ッ!?【ラビットフット】!!」


間一髪で躱し、反撃をしようと短剣を振るうが、既にその場には居らず背後から剣を振り下ろしていた。

受け止めるしか選択肢がない。

そして間一髪、短剣で受け止めることができたが、漆黒のゴブリンの剣が重い。


ラビットフットをオンオフする余裕がなく、常時発動しないと反応ができないでいた。

打開策として【酸】の球を一発放つが軽々とよけられてしまう。


バックステップでいったん距離を取る漆黒のゴブリン。


「はぁはぁはぁ」


持っている短剣を見るとひびが入っていた。

腰にはあと予備の一本しか短剣を持っていないので次、その予備の短剣で剣を受けてしまえば使える短剣は無くなり素手で戦うことになってしまうだろう。


「ふぅぅ、勝たなきゃ死ぬ..」


覚悟を決め、ひび割れた短剣で構える。

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