第20話
――
「行ってきまーす」
いつも通りの時間に家を出る。
そして向かうのは学校行のバス停ではなくF級ゲート:幸運の坑道だ。
昨日は一階層しか行けなかったが今日は2階層に降りようと思っている。
ちなみに幸運の坑道は、全部で三階層となっていて縁力の草原と同じなのだ。
受付に冒険者カードを見せて早速入る。
今日は最短ルートで進むことに決め、二階層までに出会う魔物は素早く倒していく。
「最短のルートで来たけど、マッドドール居すぎて普通の道のりと何ら変わりなかったな...」
僕は階段に着くまで計六体のマッドドールの相手をした。
その中の二体は特別で、腕が長かったり足が長かったりして少し厄介だった。
「縁力の草原だと一階層と二階層の雰囲気変わってたけど、ここは変わんないのか」
降りきった先で見たのは、先程と同じような坑道。
もしかすれば足場が悪かったりなんてことを想像していたが、そんなことは無く一階層と同じで整備されている。
ここ、幸運の坑道の二階層は一階層とは違い、道の枝分かれが少なくどの道を選ぼうと同じ時間歩くようになっているのだ。
なので、一階層とは違いすれ違う冒険者の数も増えそうだ。
進んでいると新しい魔物に出くわす。
「ビッグラット...名前通りの見た目と大きさだな」
目の前に現れたのは、大きいネズミのビッグラット。
大きさは軽自動車より一回り小さい。
そして今回、僕はビッグラットに大きく期待を寄せていた。
ビッグラットは土魔法を使ってくる魔物なのだ。
魔法を使うことに憧れていた僕は、いつも以上にやる気だ。
「魔石、貰うぞ!うぉおおお!!【ラビットフット】!」
【咆哮】を使用後、【ラビットフット】で一気に距離を詰めていく。
短剣の刃がビッグラットの胴体に刺さる瞬間に地面の一部がせり上がり、針の形をした地面が伸びてくる。
一撃で土の針は壊せたが詰めようとすれば上下左右から土の針が迫ってくる。
ビッグラットのMP切れを狙ってもいいが、どの程度時間がかかるのかわからないので即座に脳内で却下。
ならば、どうするか。
「強引に詰めてやるよ!!」
次々と襲い掛かってくる土の針を躱しながらビッグラットに近づく。
あと一歩手前の所で左右同時に土の針が迫ってきており、どちらかを壊してもどちらかが胴体に刺さってしまう状況に陥る。
「チュチュチュ~!!」
ビッグラットも勝利を確信し、声を上げていた。
だけど、ビッグラットに見せていたスキルは全てではないことを僕だけが知っている。
周囲に目をやるが人の気配がない。
こんな状態だからこそ、力強く呟く。
「【デュラハンの鎧】」
一瞬にして体には漆黒の鎧が纏わり、土の針は当たった瞬間に砕け散る。
「チュチュ!?」
「少しでも油断したお前の負けだ」
そのまま短剣を胴体に深く刺し込む。
それだけでは仕留めきれないので刺し込んだ短剣を振り抜き、最後はビッグラットの眉間に短剣を刺し込む。
力なく倒れたビッグラットは、霧となり魔石を落として消えた。
「よし、上手く行ったな」
地面に落ちているビッグラットの魔石を拾い上げようとしたが、魔石を手にすることは叶わなかった。
「ガハッ!」
体に強い衝撃が走り、壁に激突する。
自分の元居た場所に視点を戻すとそこには揺らめく影。
いや、黒装束の女性が立っていた。
何故、吹き飛ばされたのか。
いったい誰なのか。
なぜこんなことをするのか。
聞きたいことは山程あったが、声を出そうとした瞬間、女性が腕を振るう。
黒い何かがこちらに飛んでくる。
「【ラビットフット】!!」
瞬時にその場から離脱する。
魔石を拾う際にデュラハンの鎧を解除していれば最初の一撃で気絶していただろう。
吹き飛ばされはしたがそこまでダメージを受けた感じがしない。
「....その鎧は何ですか。先程までは着ていませんでしたよね。そして私の蹴りが直撃して傷すらつかない。貴方みたいな荷物持ちと呼ばれていた人間が買えるとは思えないのですが」
物凄く濃密な殺気だ。
確実に逃がしてはもらえないだろう。
僕が、何も話そうとしないのを理解したのか。
黒装束の女性は、一直線に地を蹴り、僕の元へと駆けてくる。
こちらも全力で地を蹴り、女性の右手に持つ短剣を避けるがすべてが紙一重だ。
何なら、鎧には当たっており、これがなければ何度も傷をつけられていただろう。
「厄介ですね。狙うべきは首ですか」
もう一段階ギアを上げたのか先程まで見えていた動きが辛うじて見える程度になった。
「ぐッ!」
何度も短剣で受け止めれてはいるがこちらの短剣とあちらの短剣の性能が違いすぎてこちらの短剣にひびが入る。
「見た感じゴブリンの短剣ですね。防具と武器の釣り合いが取れてませんね。おとなしく首を差し出していただければ苦しまなくて済みますよ」
「はぁはぁ....」
最近多いな。
命の危機が訪れるの。
バックステップで距離を置く。
「ここで、諦めて何になるんだ」
覚悟を決めないといけないのか。
何故、僕のことを狙うかは分かんないけど...
あの時、決めたんだ。
敵は――
「殺す」と。
左手に【酸】を垂らし、右手で短剣を構える。
「....できる限り、苦しまないように殺してあげますよ荷物持ちの少年」
天井から石の欠片が落ちてくる。
そして落ちきり、音を立てた瞬間、僕と彼女は動き出した。
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