ショート・ショート
ショーンティン
第1話
一郎、三郎
この会社はユニークな会社と言うことでテレビで放送された
何がユニークかと言うと、社内では下の名前で呼び合おう、ということである
「佐藤一郎」であれば「一郎」と呼ぶ。
言ってみれば、アメリカ流である
会社にやってきた人に対してはも「私を一郎と呼んでくれ」と、お願いする。
この会社の社長は、それが人間関係をフランクにし、業績に反映すると考えた。
しかし外部から見ると、危なっかしく見えた。
これが原因で、時々けんかも起こるらしい
新入社員が、部長に「たけし、これ!」といったところ、部長がいきなり新入社員を殴りつけたらしい
その原因は不明となっているがなんとなく解る。
出入り業者が、総務の課長に、その課長の下の名前を呼んで「三郎!ここにハンコ!」と言ったら、ハンコが飛んできた、と言う話もある。
似た話しはまだある、出入り業者が、可愛い女子事務員に
「かおり!サイン頂戴!」と言って伝票を出したら、花瓶にさしてある、枯れかかったバラを投げつけられたと聞いた。
下の名前で呼ぶというのは、日本ではうまくいかないかもしれない。
外国にしたところで、そう呼び合う事で、見知らぬ二人が一気に親しくなると言うのだろうか。
またそれで、本当に人間関係がスムーズにいっているのだろうか、怪しいものだ。
会社の中だけならまだしも、外部の人に対してもこのルールをお願いするのは、行き過ぎのように思う。
あるとき、
客先との面談になって、互いを「一郎、三郎」と呼び合う事になった。
「一郎、この部品を10ケースください」
「三郎、ありがとうございます。月末までに納品します」
この会話は、この中に敬語が存在するから成り立っているのである。
これが無かったら問題が起きるのは予想できた。
名前を親しく呼び合えば敬語も失われるだろうというのは言われていたことである。
確かに、このやり方は、始めは客先との関係も親密さが深まり売り上げも伸びた。
最初と言うこともあり、珍しさも手伝って、面白半分で盛り上がっていたのである。
しかし、月日がたって、会話の中の敬語が過(あやま)って失われる場合もあって、
状況は一変した
取引先との会話の中で
「一郎、部品100ケース納品でいいですね!」とメーカーの担当社員
「わかったよ!三郎、集金は一年後にな!」と客先営業マンが単なる冗談を言った。
その場で取っ組み合いになったらしい。
別の話では、当の社長が体調の悪いときに部長から、「ひさし」と名前を呼ばれ、「頭にきて」その部長を辺地にとばしてしまった事もある。
社長からして、こうである。
続くわけが無い。
「苗字ではなく名前を呼ぶ」と言うアメリカ式のルールが廃止になったのは、社長の奥さんが若い社員からその名を呼ばれたのが原因らしい。
社長の奥さんの名は「トメ」というが・・・・・
あるとき、社員が、奥さんを呼び止める必要があって、その名を、遠くから大声で叫んだのである。
「トメー」!
叫んだ社員に罪は無い!
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