第18話

赤い手帳 1


Aさんは日本橋に6階建てのビルを持つ会社の社員である。

中肉中背、30代半ばのごくごく普通の男である。週に3日は残業があり忙しい毎日を送っている。

4月のある日、残業を終えてエレベーターを降りようとしてドアが開いた真ん前に目立つ赤色の手帳が落ちていた。踏んではいけないので反射的にそれを拾った。

たまたまその時は周りに誰もいなかった。

当然誰が落としたのかは分からない。仕方なくそれをカバンに入れ家路についた。

Aさんの心の何処かに、見ず知らずの人の秘密を垣間見る期待と好奇心がうごめいていた。

独身のAさんは家に着くと、風呂そしてビールを飲むというルーティンの中でかばんから赤い手帳を取り出し僅かな興奮を抑える様に、確かにその中身を確認する様に1ページを開いた。

その時Aさんが気づいたのはこの手帳はスケジュール帳では無いということである。

読み進んでみるとこの中は、彼女が自分が感じた事を喜び、悲しみ、恨みの感情を自由に表現して書かれている。

その中の気になる事が書かれていた。

いわゆる不倫を思わせる内容のものである。

燃える様な愛の心の内、憎しみを思わせる嫉妬。読む方のAさんを驚かせ、手帳を拾った事を後悔させた。一気に読もうとしたが疲れが先に立ち知らず知らずのうちに眠りに入っていた。翌朝は快晴。Aさんは手帳の事が頭の片隅に有りながらもいつもの様に出社した。

しかし、この日はいつもの様にとはいかなかった。片隅にあの赤い手帳ことが頭から離れない。あの手帳は同じ会社の女性社員であるとAさんは決めている、と言うのはあの時間帯に外部の人間が居るとは考えずらいからである。

そう思って周りを見ると何時もの会社の風景とは僅かに違って見えた。同じ階の女性かと思うと一層落ち着かない。

Aさんの心の中で持ち主は誰かと言う興味が沸々とわいてきた。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る