第7話

あー!神様


ある会社が都内の観光も面白いと言う事で

観光会社にガイドの派遣を依頼した

来たのは男のガイドである

このガイドはこの時点で体調不調。

食べあわせが悪かったのかおなかはゴロゴロである。

おまけに二日酔い。不安を抱えての乗車である。悪い事にトイレの付いていない中型車である。不安はいよいよ大きい。

とはいっても仕事は仕事、確かにやり遂げなければいけないという職業意識が男をシャキッとさせた。とりあえず、出だしは順調である。

いつもの調子でないのはおなかの中かも知れない。

おなかの中がぐるっとなった瞬間「まずい、だめだ!」と顔面は蒼白、必死でこらえた。

こらえた甲斐があって何とか危険は回避した。

その男の苦しそうな雰囲気に「男のガイドなんか、何で頼んだー」の声が飛ぶ。

ガイドは切れそうになるが切れたら出そうなので我慢した。頭の中は「出たらどうしよう」の不安が渦巻く。

「出る」の文字がハリケーンのように飛び回っている。

前に座っている人間がすべて、いらだたしく見える。「俺の事を見るんじゃねー、とっとと帰って寝ろ!」と頭の中は罵詈雑言の嵐である。

そんな事を乗客は知るはずも無い。

ガイドの状況は切迫している危険状態で顔は青ざめていてすべての神経がお尻に集中し始めている。目は据(す)わっていてからだはぴたりと動かない。動いたら出てしまう。

ガイドの頭の中は次の観光場所である東京タワーの事でいっぱいである。そこに着けば、トイレがある

砂漠で、オアシスのようなものである。

うつろな気持ちでその事ばかりを考えている。

口は半開きで目の玉はぐるぐる回っている。

あと何分、あと何分・・・。

時計の針が、頭の中を駆け巡る。

その様子を見て乗客が心配そうに声をかけるが腹の中では「てめー、声かけるんじゃねー」と怒鳴りつけている。

わずかに狂った状態である。

いよいよ東京タワー。

誰よりも先にバスから降りるてもれないようにゆっくり動くが本当は走りたい。

走れば世界新記録を出す自身はあると確信している。

アー、そこを曲がれば5mで到達すると希望に夢膨らませて曲がる。

曲がってみて驚いた20人以上も並んでいる

神様に完全に見放されたのだ。

並んで待っていたらバスに戻る時間に完全に、間に合わないと、ガイド思った。

ささやかな幸運といえば、外気に当たったせいかこのガイドの腹の具合が多少よくなったことである。

・ ・・とりあえず良かった!・・・


またバスに乗る、

わずかながら足取りも軽くなったようである

が、が、が、・・・

走り出してまた激しくゴロゴロといい始めた

これが腹痛であれば救急車を呼ぶという最終手段もあるが担架に寝かされた瞬間に爆発し、みんなが逃げ出す事は間違いない。

下痢を憎んだ乗客を憎んだ運転手も憎んだ

社会も憎んだ奥さんも子供もみんな憎んだ!

こんなときに、乗客が皇居前広場を見て「あれは何」と聞いてきたので

腹の中で「これを見て分からないのか、日本人か!」と怒鳴っているが、そうもいえず朦朧として「アレは桂浜デース」と、こんでも無いことを言ってしまった。

それを乗客は一瞬驚いたが、次に大きく笑った

「こんなところに桂浜があるわけ無いだろう!」と乗客。

ガイドの耳に入っていない。

耳に入っていたら爆発しただろう。

次に、乗客が歌舞伎座を見て、

「あれは何?」と聞いてきた

「気安く聞くんじゃねーよ馬鹿が!名古屋城に決まってるじゃねーか」と腹の中で叫んでから

「あれは名古屋城デース」と答えた。

今、ガイドは確実に錯乱状態。

これで、乗客とガイドの関係は完全に崩れた

乗客はなんとなく、ガイドがどのような状況にあるかを察した。

押し殺した笑いが溢れる。

しかし、ここでガイドはここは見学場所に指定された歌舞伎座だと気が付いた

「そうだ、トイレに行ける!」

間違ったことの反省よりもトイレである。

バスが止まると、乗客をホッポリ出して飛び出した

もれるならもれろ、といった勢いで飛び出した

トイレに頭から駆け込んだ

ドアを開け切らないのに突っ込んだものだから、激しくドアに頭をぶつけた。

その衝撃にもお尻は耐えている

目の前に白い便器が愛らしいすがたで現れた。

急いでおろして、ばら色の時間となった

腸がすっきりとして行くのを十分に楽しんだ

苦労の連続であったと思い出し幸せをかみ締めたその瞬間、妙な事に気が付いた。

周りにざわつく女性の声 声 声!

ガイドは完全に自分が自分でない!

このままでは・・「逮捕」の一字!

しかしガイドも男である。

わずかに冷静さを取り戻し、事情を言えば理解してくれるかもしれないと考えたのである。

そうして言った。

自分はガイドであり、腹を壊し必死であったこと震える声で言った。

「これから出てゆきますので許してください!」の一言。

外は同情と、納得の雰囲気。

ガイドはズボンのベルトもそこそこにドアを開けうつむくようにして飛び出した。

飛び出してすぐに「ゴン」という音が鳴り響いた。

洗面台に激突!


あー!神様!


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