第9話
思い込み
思い込みは、時にはおもしろい事態を招く。
山田さんは夫とネコの「タマ」の三人暮らし。
ネコ好きの山田さんにとっては「ネコはただの生き物ではない」
人間以上に大切にされるところもある。
山田さんの家もそうだ。
秋も深まった頃、彼女の夫が風邪を引いて寝込んだ。
こじらせたようで、なかなかよくならない。
それを近所のBさんにこぼした。
こぼしついでの話は延々二時間に及び、あたりが暗くなって二人は、別れた。
寒空の中、風邪を引くことの無い「女の強さ」は見上げたものである。
山田さんのネコのタマは人間で言えば86歳の老人である。
ネコ年齢、17歳。
ここへ来て、動きも悪く排泄も決まったところで出来なくなってしまった。
廊下でもらしたり、ソファーでやってしまったりで大変な騒ぎである。
山田さんはいやな顔を見せず一生懸命看護をした。
一方で、人間である夫はほっとかれている。
ほっておいても、風邪ぐらいでは死なないと見極めているのだ。
山田さんにとって一番大事なのは「タマ」の事である。
ある日、友人のAさんと路上でばったりと顔を合わせた。
Aさんは前に会った時に旦那が風邪をこじらせたと聞いたので「具合はどう?」と山田さんの夫の様子を聞いた。
山田さんは「タマ」の事で頭が一杯なのでてっきり猫のことだと思い「良くない」と答えた。
つづけて「最近は、所かまわず排泄するし食べないし不安で仕方がないと言った
Aさんは、まさかネコの話だとは思わないので、「入院させたら?」と聞いた。
山田さんは、あっさりとした調子で「いずれ死ぬんだしいいの。死んだら裏庭にでも埋めようと思ってるの」と言った。
Aさんは「悪い冗談」だと言ってたしなめた。
数日後、Bさんは遠くに山田さんのご主人を見た。
病み上がりらしいが、それほど悪いとは見えなかった。
それから半月後に山田さんの「タマ」が息を引き取った。
彼女のショックは大きいもので友人のAさんに泣きながら電話を入れた。
Aさんは旦那が亡くなったと思い丁寧にお悔やみを言った。
山田さんを慰めに家まで出かけると彼女は泣きはらしながら言った。
「やはり庭に埋める事にしたの」
これを聞いてAさんは驚いた。
「そんなことしたら警察に捕まってしまうじゃない!
私警察に通報するわよ!だいたいかわいそうよ!」と、大声でわめいた。
その大声で、何事がおきたのかと、山田さんの主人がAさんの背後から現れた。
振り向いたAさんは驚いた。
死んだはずの人がそこに立っているのだ!
人間のものとは思えない奇声を上げて逃げ出し門のところの三段ほどの階段を転げ落ち、
夕暮れの道を駆け抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます