第15話 遭遇
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ただ来た道を戻れば良いだけなのに。
歩いても歩いても景色が一向に変わらない状況。
明らかに異常事態だった。
「……のりちゃんのりちゃん」
「ん?」
アキは典子と繋いだ手に力が入る。
「ねぇ、さっきから変なの……」
「変って何が?」
異常事態に気付いていないのか、典子の様子は変わらない。
「あたしたち、ずっと同じ道を歩いてるみたい……」
「そうなの?」
「そうなのって、のりちゃんは気付かないの?」
「こんなに暗くて木がたくさんあったら、道が変わってないとか分かるわけないじゃん」
「それはそうだけど……」
アキはナツのように怖がりではないが、一刻も早く此処から去って家に帰りたかった。
なのに、ずっと同じ道を歩いていると錯覚してしまう。
そんなことあるはずないと否定したくても、否定出来ない自分がいた。
(腕時計取らなきゃ良かった……)
家に帰るまではつけていた腕時計。
家に帰ると腕時計をすぐに外すのが習慣だったから、今日もいつもと変わらずにアキは腕時計を外してしまった。
時計があれば行きで何分歩いたか計算して、戻るのにだいたい何分かかるのか把握出来たのに、今はそれも出来ない。
「のりちゃん、もうちょっと進んでみよう。でも、その前に……」
「アキ、なにしてるの?」
アキは道に落ちてある石を拾い集めて、置き直す。
「目印ないから石で作ってるの。同じ道を歩いているなら発見することになるでしょ? だから、これが証拠」
「ふーん?」
典子はまだ異常事態だと思ってないようだ。
「よし、完成。のりちゃん、この石触らないでね」
「大丈夫!」
「行こう、のりちゃん」
再び歩き出すアキ。
だが、
「秋乃、待って」
「え?」
典子がアキを呼び止める。
“アキ”ではなく“秋乃”と呼ばれたことに驚いてアキは典子を見る。
「アレ」
さっきまで進んでいた方向を指差す典子。
「え……」
典子が指差す先には、ゆらゆらと揺れる黒い物体があった。
アキが目を凝らして見続けていると、黒い物体がなんなのか見えて来た。
「うそ……」
黒い物体の正体は、髪の毛だった。
髪の長い“人間”が一歩進む度に左、右、左…と交互に大きく揺れて歩くことで長い髪の毛が揺れていた。
前髪も同じくらいの長さで顔を覆っていて、どんな顔をしているのか分からない。
「ねぇっ、アキにもアレ見えてる!?」
「のりちゃん、シッ! 見えてるよ」
「アレが噂の幽霊なのかな!?」
仮に幽霊じゃなかったとしても、新たな“収穫”を得た典子は興奮しているのかアキの手を掴んでブンブンと上下に振っている。
「私っ、幽霊、初めて見ちゃった!」
「のりちゃん、落ち着いて。あと、手を離して」
変わった歩き方。
顔まで覆う長い髪。
普段から誰も立ち入らない場所と時間帯に現れた理由。
霊感がないと言っていたアキと典子だが、今は異常事態が起きているから幽霊ではないと断言出来なかった。
仮に生きた人間だとしても、明らかに“関わってはいけない人物”だった。
「ねっ、近付いてみようよ」
「は?」
(あたしたちに気付かないで)
(早く此処から離れないと)
(お願い、早くどっか行って)
(どうしよう、どうしよう……)
アキの頭の中で“危険”だと警鐘が鳴っている。
それなのに、典子は的外れなことを言う。
常に我が道を往くタイプの典子だが、今は止めて欲しかった。
「のりちゃん、今は……」
「あーっ!」
「!?」
反対しようとしたら、大きな声を出す典子。
わざとやってるのではないかと疑ってしまう。
「アキ! ねぇっ、見て!」
「のりちゃんっ。あんた、いい加減静かにしてよ!」
静かにしてと言いつつ、話を聞かない典子に声を荒らげてしまうアキ。
「アキ、幽霊はカミシロ山へ入って行くみたい!」
アキに言われても、幽霊に夢中な典子は変わらなかった。
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