第10話 提案

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 次の日。

 幽霊の目撃情報についてまだ噂が流れていたものの、特に変わったことはなく授業が終わった。

 2年1組の6限目は体育で、土栄どえい中学では6限目が体育の場合はジャージから制服に着替えずにそのまま帰宅しても良いことになっていた。

 クラスメートたちは制服に着替えるのは3割程度で、アキもジャージで帰宅することにしていた。


「アキ、帰ろう」

「うん」


 タイムセールはないから、ナツがアキを探しに来ることはない。

 ホームルームを終えたアキはクラスの女子たちと一緒に帰ることにした。


「でさー、話が難し過ぎて眠いのなんのって」

「分かるー」


 雑談をしながら、玄関で上靴を履き替えて校内を出る女子たち。

 そのまま雑談を続けながら、帰路につくと思っていた。


「ねっねっ、ちょっと寄り道しようよ」


 校門を出ると立ち止まり提案したのは、アキの友だち・安田典子のりこだった。

 典子は昨日、幽霊の目撃情報について熱く語っていた女子だ。


「寄り道って何処に?」

「汗の始末はしたけど、ジャージのまま店に入るのはやだよ」

「店じゃないよ」


 違う違うと右手を横に振って否定する典子。


「典子。あんたまさか、今からカミシロ山へ行こうなんて言わないわよね?」

「えっ」


 察しの良い女子が典子へ問う。


「えへへ、ダメ?」

「ダメに決まってるでしょ!」

「昨日あんだけ言ったのになに考えてんの!」

「のりちゃん、諦めてなかったの?」

「だって~」


 寄り道がカミシロ山であることが分かると典子へ怒る女子たち。

 アキは典子に呆れてしまった。


「ちょっとだけ! ねっ、カミシロ山の入り口前までだから! 絶対にカミシロ山には入り込まないから!」


 典子は女子たちへ合掌して頼み込む。


「無理」

「いや」

「一人で行きな」

「あたしもやだ」


 典子の頼みを却下する女子たち。

 アキも首を横に振って嫌だと却下した。


「アキたちは気になんないの? もしかしたら、幽霊を見られるチャンスなんだよ?」

「ならない」

「噂は噂止まりだから良いんでしょ」

「馬鹿言ってないで帰るよ」


 女子たちは典子を置いて歩き出す。


「ちょっと待ってよぉ~!」


 後ろを振り返ることなく歩き続ける女子たちを見て、慌てて追い掛ける典子。


「それで、さっきの話の続きだけど」


 寄り道の件はなかったように雑談を再開させ、帰路につく女子たち。

 典子も寄り道するのを食い下がることはなく、雑談に混ざっていた。


「じゃあ、また明日ね」


 女子たちと別れ、アキは家の中へと入った。

 ナツはまだ帰って来ておらず、家にはアキしかいなかった。

 いつものように手洗いうがいを済ませ、鞄に仕舞ってある制服を取り出してハンガーへと掛けた。

 部屋着に着替えようと、ジャージの上着のファスナーに手を伸ばす。


(のりちゃん、大丈夫だよね?)


 ふと、アキは先程の典子の様子を思い出す。

 好奇心旺盛で、知りたがりの典子のことだ。

 去年も同じクラスで典子の性格を考えると、アキは典子がすんなりカミシロ山へ行くことを諦めるとは思えなかった。


(どうしよう。心配になって来た……)


 典子がカミシロ山へ行ってないか不安になるアキ。


『ちょっとだけ! ねっ、カミシロ山の入り口前までだから! 絶対にカミシロ山には入り込まないから!』


 先程、典子はカミシロ山へは入り込まないと言っていた。

 その点は守ると信じて良い。


(カミシロ山の入り口前……。L*NEするより確認しに行った方が早いな)


 典子がいないことを願って、アキはジャージのまま玄関の鍵を施錠してカミシロ山へと急いで向かうのだった。



「アキちゃん?」


 アキは走っているところを誰かに見られていることは知らなかった。


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