第11話 行き違い
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「上本、じゃあな」
「おー」
授業を終え、ホームルーム後に行われる教室掃除。
掃除当番だったナツは教室を去って行くクラスメートを見送りながら黒板消しをしていた。
(1組は体育か)
ふとナツが2年3組の教室前の廊下を見ると2年1組の生徒がジャージ姿だったことから、6限目が体育だったのを悟ることが出来た。
自分のクラスの時間割でも覚えているか曖昧なことがあるのに、他クラスの時間割を把握してるはずもなかった。
(アキはもう帰ったか)
ナツとアキは帰宅部なので、放課後は掃除当番などの理由がない限りナツはさっさと家へ帰る。
学校が嫌いというわけではなく、用もないのに居続ける理由がナツにはなかった。
ナツと違い、アキは教室に残ってクラスの女子たちと雑談することが多いがだいたい20分あるかないかだ。
6限目が体育の日は別で、ジャージのまま帰宅が許されているのでアキは教室に残らずに真っ直ぐ家へ帰っている。
『特別感があって好きなの』と言ったアキがナツには分からなかった。
(昨日、オムライスがどうとか言ってたな。でも、オムライス作るのって面倒くせぇんだよな。オムレツでも良いか。焼くのに失敗したらスクランブルエッグとでも言ってアキにやれば良いんだし)
黒板消しを終え、まだ終わっていないところを手伝うナツ。
「今日のゴミ捨てはオレがやるからもう帰って良いよ」
全体の掃除が終わり、ゴミ捨てを誰がやるかと話し合おうとしたらナツが名乗り出た。
「ナツくん、良いの?」
「うん、今日は時間あるし」
「マジで!? 俺、早く部活行きてぇから助かるー!」
「その代わり、次回のゴミ捨てはオレ以外でじゃんけんな」
「分かった!」
「それじゃあ上本、ゴミ捨てよろしく!」
「上本くん、バイバーイ」
「あぁ」
掃除当番だったクラスメートはナツを残して、教室を去って行った。
「さてと、行くか」
教室に残っていてもゴミ捨ては終わらないので、ナツはゴミ袋を持ってゴミ捨て場へ向かった。
「上本兄!」
「!」
ゴミ捨て場へ向かってる最中、ナツは誰かに声を掛けられた。
3年生の男子生徒だった。
「どうも、先輩」
「学ラン着てねぇと秋乃と見間違えるな」
「双子なので」
「秋乃は元気か?」
「元気ですよ」
「そっか」
男子生徒はアキの部活の先輩だった。
アキは去年まで陸上部の短距離走の選手で活躍していたが、怪我により退部していた。
アキが陸上部に在籍中、この男子生徒はアキのことを苗字呼びだったと記憶しているが、ナツにはどうでも良かった。
「秋乃にたまには顔出せって伝えといてくれ。なんだったら戻って来ても良いし」
「伝えておきます」
「おうっ、頼んだ! じゃあな!」
言いたいことを言えてすっきりしたのか、男子生徒は走って去って行った。
(アキが陸上部に戻るわけねぇだろ)
男子生徒に否定しようとしたが、ナツは言葉を飲み込んだ。
(やっぱ今日はオムライスにすっか。卵、昨日買っておいて正解だったな)
ゴミ捨てを終えたナツは、真っ直ぐ家へと帰った。
「ただいま」
十数分後、家に帰って来たナツ。
玄関の鍵を開けて家の中へ入ると、人の気配はなかった。
「アキ、いねぇの?」
てっきり家にいると思っていたのに、アキの姿を確認出来ずに首を傾げるナツ。
「鞄に制服……一旦家には帰って来たのか?」
リビングには鞄と、定位置にはハンガーに掛かったアキの制服があった。
「着替えて遊びに行ったのか」
アキが家に帰ってから何処かへ遊びに行くのは珍しいことではない。
去年ならばアキは陸上部で忙しく殆ど遊びに行くことはなかったが、帰宅部になった今は時間に余裕があった。
「夕飯までには帰って来るだろ」
学ランから部屋着に着替えながら、ナツはアキが家にいないことを特に気にすることはなかった。
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