第12話 行き違い(2)

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 ナツが掃除当番でゴミ捨てを終え、土栄中学校の玄関で上靴を履き替えていた頃。

 アキは土栄中学校の裏に来ていた。

 そこには私有地の山であるカミシロ山があるのだ。


「のりちゃん! のりちゃんいないの!」


 家から走って来たアキの呼吸は乱れていた。

 アキはカミシロ山の入り口付近でクラスメートの安田典子を探す。

 杞憂であれば、それに越したことはない。

 ただ、アキは典子がいないか自分の目で確認しないと安心出来なかった。

 カミシロ山の入り口を示す道の横にある木の幹に看板が立て掛けられており、手書きで《関係者以外立ち入り禁止》と書かれてあった。

 カミシロ山の入り口にはバリケードフェンスの類いはなく、侵入しようと思えば安易に侵入出来てしまう。

 それでも、カミシロ山へは地元民はおろか土栄中学校の教師も生徒も足を踏み込もうとする者はいなかった。


(夜じゃなくても薄気味悪いな。ナツなら絶対に来ない)


 カラスの鳴き声と、ガザガサと動物か虫が移動する音。

 ジャージを着ていても何となく肌寒い感じがするし、辺りは不気味でアキは今すぐにでもこの場から立ち去りたくなった。


「のりちゃんに電話してみよう。……あれ?」


 ジャージのポケットからスマホを取り出そうとするが何も入っていなかった。

 来る途中に何処かへ落としたのかと血の気が引いたが、よくよく思い出してみると家に一旦帰ってからスマホをジャージのポケットに入れた覚えがなかった。


「やだ。あたしってば、手ぶらで来ちゃったの? もし何かあってものりちゃんにも何処にも連絡取れないじゃん……」


 急いでいたとはいえ、痛恨のミスだった。

 スマホがなくては連絡手段がない。


(何かあった時、今のあたしが頼れるのは足だけか)


 元陸上部なので、アキは足の速さには自信があった。

 ジャージなので制服よりも動きやすいのも良かった。


(道具は何もないけれど、あたしには【逃げる】という選択肢がある)


 そう思えたら、少しだけアキの気持ちが楽になった。


(もう少しだけのりちゃんがいないか探して、見付からなかったら帰ろう。あまりに帰るのが遅かったらナツに怒られちゃう)


 ナツが心配するとは思っていないアキ。

 『こんな時間に帰って来るなんて良いご身分だなぁ?』と皮肉を込めて言うはずだと、アキは想像したナツへ苛立った。


「のりちゃーん! 典子ちゃーん!」


 気を取り直して辺りを見渡しながら、アキは典子を探す。


「え、アキ?」

「!」


 典子は意外とすぐに見付かった。


「のりちゃん!」


 急いで駆け寄ると、典子は嬉しそうな表情を浮かべた。


「やっぱりアキは来てくれると思った~!」

「ちょっとのりちゃん!?」


 嬉しさのあまり笑いながらアキへ抱きついて来る典子。


「のりちゃん、離れて」

「アキ。此処が幽霊が目撃された場所だよ」

「うん。そうみたいだね」


 アキは典子へ『いいから早く帰ろう』と言いたくても、言えなかった。

 6年前に行方不明になった姉・来々美ここみに当てはまる幽霊が目撃された場所だと思えば、真相を確かめたい気持ちもあったのだ。

 先程まで一人で心細かったのに、今は典子が一緒にいることでその気持ちは大きくなってしまった。


「ねっ、アキ。もうちょっとだけ探索しようよ」

「え?」

「カミシロ山へは入らないからさ。ジャージだから汚れても平気だしこんな機会、もうないでしょ?」

「………」


 ごくり、と生唾を飲み込んだのはどっちだったのか。



『……あそこ、変な感じして嫌なんだよ』

『ナツはそういうの感じやすいもんね』

『だったら、幽霊が姉ちゃんかもしれないなんて思うんじゃねぇ。この件は関わるな。カミシロ山へは行くな』



 昨日のナツとの会話がアキの頭を過る。


(ちょっとだけ……ちょっとだけだから……)


 典子を探すという目的は達成したのに、次は幽霊を探すことにしたアキ。


『カミシロ山へは入らない』


 典子の言葉を信じて、アキはもう少しだけカミシロ山の入り口付近を探索することにしたのだった。


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