第19話 鳴る電話
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時刻は19時過ぎ。
未だに帰って来ないアキに、ナツは頭を抱えていた。
「何処でなにやってんだ、あのアホは……」
20時過ぎには母親が仕事から帰って来てしまう。
その前にアキが家に帰って来たら、夕飯と入浴がまだだろうがナツとアキで口裏を合わせたらいくらでも誤魔化すことが出来る。
しかし、アキが帰って来なければ母親を誤魔化すことは難しい。
「母さんが面倒くせぇのはアキが一番分かってんのに、マジでなにやってんだよ……」
たまにある延長になって、母親が帰って来る時間が遅くならないかと家の固定電話を見るが鳴る気配はない。
「………家に帰ってねぇのはアキだけなのか?」
ふとナツはそんな疑問を抱いた。
いくらアキでも一人でこんなに遅くまで帰って来ない日はなかった。
そうなると、ナツにはアキが誰かと一緒にいるんじゃないかという考えは外れてない気がした。
「1組の女子でL*NE知ってる奴いねぇんだよな」
アキと違い、交流関係が狭いナツはL*NEを交換している友だちが少なかった。
去年同じクラスで今年1組になった男子のL*NEは数人知ってるが、L*NEをした相手を間違えた場合にアキが帰って来ないことを
Prrrr……Prrrr……
「!」
ナツがスマホとにらめっこしていると、家の固定電話が鳴った。
「はい」
母親だと思ったナツは躊躇しないで受話器を取った。
『もしもし! アキ?』
「は?」
電話の相手は母親ではなかった。
上本秋乃を『アキ』と呼ぶ人物はナツと同級生くらいだ。
「オレ、ナツだけど?」
『えっ、あっ、ナツくん!? ごめんっ、今急いでて! アキ出してくれる?』
「どちらさまですか?」
十中八九アキのクラスメイトの女子であることは分かったが、誰なのかまではナツには分からなかった。
『あぁっ、ごめん! 私、1組の安藤です。アキの友だち。ちょっと困ったことになってて……』
「安藤か。アキならいねぇよ」
『えっ、アキも?』
「アキ“も”ってことは誰か帰って来てねぇの?」
『う、うん、そうなの。うちのクラスの安田典子がまだ帰って来てないって典子のお母さんから電話が掛かって来てね……』
安田典子とフルネームを言われても、ナツはすぐに誰か思い浮かばなかった。
「今日は1組ってジャージ下校の日だっただろ。安藤はアキと一緒に帰ったのか?」
『うん、アキと典子と帰ったよ』
「その時に何か変わったことなかったか? 帰ったら遊ぼうとか話してなかったか?」
『えー、なんかあったかな? う~ん……あっ!』
何か心当たりがあるのか、安藤が声を上げた。
『いや、でも……』
「どうした? 些細なことでも良いから話してくれ」
『……近くにナツくんのお母さんっている?』
「まだ帰って来てない」
『良かったー。いや、状況はちっとも良くはないけど。あのね……』
「うん?」
『もしかしたら、アキと典子―――カミシロ山に行ってるかもしれない……』
ナツは受話器を落としそうになった。
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