第18話 3つ目の選択肢
.
「う~ん……」
どうしようどうしようとその場に留まり、【歩く】か【待つ】かのどちらを選べば良いのか迷うアキ。
どちらも選んではないので【待つ】にはなっていなかった。
「きゃーーーっ!!!」
「!?」
アキが迷っていると、何処からか悲鳴が聞こえた。
悲鳴が聞こえたと同時にバサバサとカラスが何羽も飛んでいくのを見て、聞き間違いではないことを悟る。
「の、のりちゃん……?」
悲鳴は典子のものだった。
カミシロ山に足を踏み入れた典子が、悲鳴を上げた。
「のりちゃんっ!」
典子の悲鳴を聞いて、アキはカミシロ山へ入りそうになる。
「っ、ダメ!」
しかし、自分で自分にストップを掛けてアキは立ち止まった。
「ダメダメっ。カミシロ山には入っちゃダメ……お母さんに怒られる……呪われたくない……行きたくない……」
その場にうずくまるアキ。
【男子禁制】の山だから、女のアキはカミシロ山へ入っても呪われはしないだろう。
カミシロ山へ足を踏み入れたのは典子の意思で、カミシロ山で何かあっても典子の自己責任だ。
アキには関係ない。
だけど……。
『秋乃。秋乃は友だちを大事にするのよ。友だちが困った時は助けてあげてね。そしたら、いつか秋乃が困った時に友だちが助けてくれるから』
昔、姉・
『あのさぁ。万夏と秋乃は双子だけど、いつまでも一緒にはいられないのよ。万夏は秋乃が困ったら助けてくれるけど、秋乃はいっつもあの人から万夏を助けてないで逃げるわよね。ほんと、嫌な子……』
優しくて大好きな来々美の言葉。
「お姉ちゃん……?」
記憶だから思い出しているのに、アキには来々美から言われた記憶がなかった。
「なにこれ……」
今まで遭遇したことのない異常事態と、典子から嫌なことを言われたことでアキは動揺しているのかもしれない。
だから、アキが覚えている来々美の記憶とごちゃ混ぜになってしまったのだろう。
「………のりちゃんを助けに行く?」
【歩く】と【待つ】の選択肢に【入る】が新たに追加された。
(あたしはこのまま“友だち”を見捨てるの?)
来々美が、友だちを大事にしろと言った。
だから、アキは友だちを作って大事にしてきた。
友だちが困ったら助けろと言ったのも来々美だ。
だから、アキは友だちが困ったら助けてきた。
「………あたしを否定したのりちゃんを助ける意味あるの?」
【カミシロ山へ入ってはいけない】という決まりを破ったのは典子だ。
典子がカミシロ山でどうなろうと知ったことではない。
アキが知ったことではないのだ。
「いやぁーーーっ!!! 誰か助けてぇーーーっ!!!」
「っ」
“呪われる”とか“自分には関係ない”とかいくら考えても、友だちが危険な目に遭ってるかもしれないと分かって、無視出来るほど上本秋乃という人間は薄情ではなかった。
「のりちゃん!」
アキは急いで幽霊と典子と同じように生い茂る木々の間を通ってカミシロ山へ入った。
これが、アキがカミシロ山へと足を踏み入れた理由になるのだった。
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます