第17話 迷うアキ
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「どうしよう……」
アキの手を勢い良く振りほどき、典子は幽霊と同じように生い茂る木々の間を通ってカミシロ山へと足を踏み入れて行ってしまった。
典子がすぐに戻って来る気配はなく、アキは焦っていた。
アキが良かれと思ってやっていたことが、典子にとっては苦痛になっていた。
幼い頃から言われ続けて来た【カミシロ山へは入ってはいけない】という決まりを、典子はいとも簡単に破った。
「のりちゃん……」
典子に振りほどかれた時に叩かれた手が痛い。
アキにとって典子は友だちだが、アキは決まりを破ってまでカミシロ山へ足を踏み入れて典子を追い掛けるつもりはなかった。
『何をしようが私の勝手じゃん? 私が入りたいんだから、カミシロ山へ入っても良いじゃん。いちいちダメダメってアキは私のお母さんなの? マジでうざい』
『あー、はいはい、ありがとー。でも、超迷惑。帰りたかったら一人で帰ってよ。私は呪いなんて信じてないから、カミシロ山へ入るよ。幽霊の正体を知りたいもん』
『うっざ』
典子に言われたことを思い出すと、アキは腹が立ってきた。
典子を心配して探しに来たのは、確かにアキが勝手にやったことだ。
典子や誰かに頼まれたことではない。
だけど、友だちが危険な目に遭うかもしれないと思い、行動することが悪いとはアキには思えなかった。
「のりちゃんのバカ! 呪われたって知らないから!」
ナツほど怖がりでないにしろ、アキだって此処まで来るのに躊躇した。
それでも、典子のことを考えると放っておくことが出来なかった。
「これ、どうすれば良いの……?」
カミシロ山へは【入るな】と耳に胼胝が出来るくらいに言われていても、【入ってしまったら】の対処方法は聞かされてなかった。
「警察に通報……? あー、スマホ持ってない……違う、多分今はスマホ持ってても意味ない……」
典子のことで忘れてしまいそうになるが、異常事態が起こったままなのは変わってなかった。
スマホを持っていて警察に通報しても、繋がるとは思えなかった。
アキが典子を置いて帰るにしても、普通なら見えるはずの
土栄中学校の校舎が見えた時に、異常事態ではなくなるのだろう。
「こういう時、他の人ならどうするんだろう……」
典子がいない今、アキは一人で考え決断しないといけない。
歩き続ければ、異常事態が終わって家へ帰れるかもしれない。
待ち続ければ、典子がカミシロ山から戻って来るかもしれない。
アキが今出来るのは【歩く】か【待つ】かの2択だ。
どちらが正解なのか、アキには分からなかった。
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