第16話 遭遇(2)
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「な、なんで……」
幽霊がカミシロ山へと入っていく。
カミシロ山の入り口を示す道の横にある木の幹に看板が立て掛けられており、手書きで《関係者以外立ち入り禁止》と書かれているが、それはあくまで“入り口”であり、カミシロ山は何処からでも足を踏み入れることが出来ていた。
幽霊も入り口を使わずに、生い茂る木々の間を通ってカミシロ山へと入って行った。
「待って!」
「のりちゃん、ダメ!」
幽霊に自分たちの存在が気付かれなかったことにホッと胸を撫で下ろしたいのに、あろうことか典子は幽霊の後を追い掛けた。
幽霊を追い掛けるということは、典子もカミシロ山へ入ることになる。
それだけはどうしても避けたかった。
「のりちゃん!」
足の速いアキはすぐに典子へ追い付く。
あと数歩でカミシロ山へ足を踏み入れてしまうギリギリのところで、典子の腕を掴んで止めることが出来た。
「のりちゃん、約束忘れたの!? カミシロ山には入らないって言ったでしょ!」
「えー、でも、せっかく幽霊を発見したんだよ? 後を追わないと後悔するじゃん」
「カミシロ山に入った方が後悔するよ! カミシロ山へ入って呪われたらどうするの!」
「私たちは男じゃなくて女だよ? 呪いなんて受けないよ。だいたい呪いなんて、そんなのあるわけないじゃん」
「なっ!」
小さい頃から(もう聞きたくない!)と思うほど、『カミシロ山へは入ってはいけない』と耳に胼胝が出来るくらいに聞かされていた。
どの家庭も必ず子どもへ言い聞かせ、カミシロ山へ入った者がその後どうなってしまうのかも教えられていた。
今回、
たまたま、目撃された幽霊の姿が6年前に行方不明になったアキの姉・
アキだって本来ならば、首を突っ込まない。
典子を探しにカミシロ山付近まで来てしまったことをアキは後悔していた。
だけど、友だちである典子を放っておくことが出来なかったのだ。
「のりちゃん、あんた……っ」
「あのさぁ、アキ。はっきり言うけど、さっきからうざいよ」
「え?」
鬱陶しそうにアキを見る典子。
「何をしようが私の勝手じゃん? 私が入りたいんだから、カミシロ山へ入っても良いじゃん。いちいちダメダメってアキは私のお母さんなの? マジでうざい」
「っ、あたしはただ、のりちゃんを心配して!」
「あー、はいはい、ありがとー。でも、超迷惑。帰りたかったら一人で帰ってよ。私は呪いなんて信じてないから、カミシロ山へ入るよ。幽霊の正体を知りたいもん」
「のりちゃんっ」
「うっざ」
アキの手を勢い良く振りほどき、典子は幽霊と同じように生い茂る木々の間を通ってカミシロ山へと足を踏み入れて行った。
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