第8話 二人の食事

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「………」

「………」


 土栄どえい中学校で幽霊の目撃情報の噂が流れたその日の夕食の時間。

 母親から仕事で残業になったと連絡が入り、ナツとアキは二人で夕食を食べていた。

 いつもならクラスでの出来事などで会話をするが、無言のまま夕食を食べ続ける二人。

 ちなみに今日の夕食はナツのお手製ハンバーグだ。


 心ここにあらずのアキ。

 そんなアキを凝視するナツ。


「おい、アキ」

「んー?」


 痺れを切らせたのか声を掛けたのはナツだった。


「お前、なんか言うことあるだろ」

「言うこと?」


 ナツに声を掛けられて、顔を上げたことで目が合うナツとアキ。


「ナツ。今日のハンバーグ、ちょっと焦げてる。自分は成功したやつにして焦げてる方をあたしに寄越したでしょ」

「文句があるなら食うな」


 ハンバーグが盛り付けられた二人の皿を見比べていると、アキのハンバーグの方が少し焦げていた。


「今日、お母さんいないならわざわざハンバーグ作んないで冷凍パスタで良かったじゃん」

「卵の賞味期限がやばかったんだよ」

「だったら、オムライスとかで良いじゃん。今日はタイムセールないのに一人でひき肉とか買いに行ったのはなんで?」


 アキに指摘され、舌打ちするナツ。


「うるせぇな。気分だ気分」


 看護師で多忙な母親に代わり、ナツとアキは家事を分担している。

 二人で家事を分担していても、料理も洗濯も掃除も率先してしているのはナツだ。

 周りの男子中学生と比べると家事スキルは高い方だろう。


「あたししか知らないんだから、手抜けば良いのに」

「オレは将来困らないために家事スキル磨いてんだよ。お前は黙って練習台になっとけ」

「あたしを巻き込まないでよ」

「お前ももう少し家事出来るようになれよ。一人暮らしした時に痛い目見るぞ」


 ナツはよく“自立”や“一人暮らし”などの言葉を口にする。

 まだまだ先のことでも将来について考えているようだ。


「将来一人暮らししても、困ったらナツの家に行くから良いもん」

「うわっ、居座る気満々じゃねぇか。ぜってぇ入れねぇ」

「ナツ。ハンバーグおかわりある?」

「ある」

「食べたい」


 話の途中だが、アキはハンバーグのおかわりを要求する。


「太るぞ」

「育ち盛りなの」

「自分で取りに行けよ」

「やだ」


 ナツへ皿を差し出すアキ。


「ったく」


 アキから皿を受け取り、フライパンに入ってるハンバーグを取りに行くナツ。


「あっ、焦げてないやつね」

「わざと焦がしてやろうか?」

「普通のハンバーグお願いしまーす」


 文句を言いつつも、フライパンから形の良いハンバーグを盛り付けてアキへ持っていくナツだった。


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