第7話 考えるアキ
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(どうしよう、噂の幽霊はお姉ちゃんかもしれない……)
授業中、クラスの女子たちから幽霊の目撃情報を聞いたアキは考えていた。
噂好きが多い2年1組の女子たちが幽霊の目撃情報について盛り上がっていた中、アキは上の空だった。
黒髪ロングの女性の幽霊は、よく怖い話などで登場する幽霊の姿といっても過言ではない。
“口の左下”に
(幽霊の正体はお姉ちゃんなのかな……。あたしはお姉ちゃん以外で口の左下に黒子が3つある人に会ったことない)
黒子の数と位置だけで、幽霊の正体が6年前に行方不明になった姉・
(ううん、黒子だけで幽霊がお姉ちゃんって決めつけちゃダメだよね。幽霊の黒髪の長さは? 服装は? 幽霊を見たって噂が広がってるくせに肝心なところが情報にないじゃない)
アキが6年前まで一緒に暮らしていた来々美について覚えているのは、艶やかな胸下まで伸びた黒髪。
アキは中学生になれば、自分も来々美のように制服を着こなす女子になれると信じていた。
(あたしは全然お姉ちゃんみたいになれなかったな)
アキが下を向いても視界に入って来ない髪。
アキは物心ついた頃からずっとショートヘアだ。
肩につくまで伸ばしたことがない髪。
来々美のように自分も髪を伸ばしてみたいと言っても、不要だと母親が許してくれなかった。
来々美が良くて自分がダメなことに、納得がいかないアキは何度も母親に交渉したが許してもらえず悔しくて泣いていた。
物心ついた頃から、周囲にナツとアキが双子であることは知られていたが“兄と妹”ではなく“兄と弟”として見られていた。
身体を動かすことが好きで活発だったアキは、よく男の子に間違われていた。
男女の双子だと説明するとナツの方が女の子に間違われることがあり、アキが嫌な思いをしたのは一度や二度ではない。
男の子っぽい喋り方、男の子っぽい髪型、男の子っぽい服装、男の子っぽい行動力。
成長期の子どもの性別は分かりづらく、顔が似ている双子の片割れと一緒にいれば同性に間違われても無理はない。
(昔は髪を伸ばせばお姉ちゃんみたいに女の子っぽく見られるかもって本気で思ってたな)
左手で横髪を一房摘まみながら、昔のことを思い出すアキ。
『私は髪が短いのって似合わないんだ。だから、髪を伸ばしてるの。ショートヘアが似合う秋乃が羨ましいよ』
髪を伸ばすのを諦められなかったアキへ来々美が言った。
『無理に髪を伸ばさなくても秋乃は可愛い女の子よ。自信を持って』
アキに可愛いと言ってくれた来々美。
『そうだ。ヘアピンつけたらどうかな? 可愛い秋乃が可愛いヘアピンつけたら、もっと可愛くなるわ』
そう言って、来々美は自分の愛用していたヘアピンをアキの髪につけてくれた。
その時に来々美から貰ったクマの顔がついたヘアピンはアキのお気に入りになった。
それから、髪が短くてもヘアピンをつけたことでアキが男の子に間違われることは少なくなった。
『アキが良いなら良いんじゃねぇの。ヘアピンつけてたらオレもアキに間違われることなくなるだろうし』
髪にヘアピンをつけ始めたことでナツがからかって来るかと身構えていたが、アキに否定的なことは言って来なかった。
毎年、アキの誕生日にはナツが可愛いヘアピンをプレゼントしてくれるのは意外だった。
(ナツも幽霊の目撃情報聞いたのかな……)
アキが今、髪につけているのはピンクのウサギの顔がついたヘアピンだ。
二つセットのもので、去年の誕生日にナツがプレゼントでくれたものだった。
『これでまた少しは女らしくなれよ』と皮肉を言ってきたが、アキの好みを熟知しているナツは流石というべきだろう。
ウサギのヘアピンを一つ外して掌に乗せて、眺めるアキ。
(ナツのことだから、クラスとかで幽霊の目撃情報を聞いても何ともない顔をして内心では怖がってるだろうな)
昔からナツは心霊現象などの怖い系が大の苦手だ。
テレビの心霊番組など明らかに創作だろうと分かる映像でも見るのが嫌で避けている。
怖いくせに強がるナツに、怖いのは苦手だと認めてしまえば楽になるのにとアキは何度思ったことだろう。
(今頃、ナツも幽霊の正体がお姉ちゃんかもしれないって考えてるかな。くだらねぇって思ってるかな。ナツのことだから、幽霊のことを考えたら寄って来るかもって怖がって必死に考えないようにしてたりして)
双子だからか、アキにはナツが考えそうなことが何となく分かった。
(どうせ、ナツはあたしのことを『あいつはアホだから何も考えてないか』とか思ってるんでしょうね。あぁっ、むかつく!)
幽霊が来々美ではないかと考えていたのに、ナツのことを考えていたことに気付いてもやもやするアキだった。
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